Project | ナノ
私で良いのかなと思ったのだ。


考えてみれば当然のことだった。

決して自分を卑下しているわけではないが、それでもシュラは私を大切にしすぎている。少しでも重い荷物を持てば取り上げられ、彼が代わりに運んでくれる。少しでも体調が悪いかなと思ったときにはすでに休む準備がされている。むしろ驚いたのは自分自身でも気づいていなかった体調の変化にシュラが気付いていたことだった。


この人は本当に人を良く見ている。

相手を観察し、理解しなければ生きていけない人生を追ってきたからこそのその能力だろう。少し悲しくも思うが、これからもそうして彼が無事に生きていけるのなら私は何も文句はない。

ただ、やはり言いたいのは、それだけよく人を見る力を持っているシュラが、何故か私を好きだという事だ。しかもそれだけでなく遠慮をしたくなるレベルで大切にされているという事実。それが私の疑問だった。

何故なのか。
この人は本当に私で良いのか。

それは有る意味遅すぎる疑問だった。


夕食後のふとした瞬間にその疑問を口にした時、シュラは困ったような顔で黙り込んだ。

あまりにも長い時間シュラはそうして考え込むように難しい顔をしていた。もしかしたら聞いてはいけないことだっただろうかなんて考えてしまう程度には長い沈黙だった。

シュラは数分の後にゆっくりと頷くと、私に向き直った。

「なまえが傍にいることを俺は、当然のこととして受け取ってしまっている。お前に何かすることも同じだ」

眉を寄せて、何か小難しいことでも言い出しそうな雰囲気でそう言ったシュラが私をまっすぐに見る。
言葉に詰まった私に、シュラはほんの一瞬微笑んだように見えた。


「失う事を恐れているのかもしれないし、そうではないのかもしれない。傍にいたいと思う気持ちに間違いはないが、お前にもそれを望んでもらいたいと思っているのかもしれん」
「私、そんなに利己的じゃないよ。私はシュラが好きだから、傍にいるんだもん。だからあんまり私のために無理しすぎないで欲しいって思うの」

それに僅かに目を細めたシュラが短く問う。

「迷惑だったか?」
「まさか」

まさかそんなことがあるはずがない。

シュラが何かをしてくれるだけで私は幸せだし嬉しい。しかし何事にも限度がある。私は彼に無理をさせてまで私のために行動をさせるつもりはない。

「荷物だって自分で持てるし、体調悪い時も結構一人でなんとかなるよ」
「何もするなということか?」
「そうじゃないの、シュラはいっつも私にたくさんのことをしてくれるし、教えてくれる。誰かに頼れることが嬉しいって知ったのもシュラのおかげだよ。でも、だからこそシュラにばっかり頼りたくないの。私は頼りないかもしれないけど」

それでもシュラにも私と同じ気持ちをと願う。
私に一体彼に何をしてあげられるのか、さっぱり分からなかったが強くそう願ったのだ。だがシュラはもう十分だと言って口端を上げる。

「だが、なまえがまだ今以上の何かを望むのなら傍にいてくれ」
「…それだけ?」
「それで十分だ」

再三繰り返したシュラに苦笑で頷く。シュラはそういうけれど、やっぱり私は何かを返したいと思うのだ。せめて、明日の朝食の準備くらいは私がしてみようか。

ああ、それがいい、明日の朝食にはスペインの朝食をイメージしたシュラの好きな甘いものを中心にしよう。想像しただけで胸やけをしそうになるくらいの甘さを、明日の朝には添えよう。

そう決めた私に、シュラが手を伸ばした。頭に触れた大きな手をそのままにシュラが「先ほどの質問の答えだが」と切り出す。

「うん」
「すでに言ったように、俺にはよく分からん」

常識に近い感覚になってしまったそれを今更考え直してみても答えなどもうよく分からないのだと言ったシュラに笑いかける。もうこれまでの応答で十分だった。

「ありがとう、変な話をしてごめんね」
「…愛が無償のものかどうかなど俺には分からん。見返りを期待しているのかもしれない。だが傍にいたい、愛したいというこの気持ちに嘘がないことだけは誓う」

甘く、ふわふわとした気分にさせる言葉。そして髪を梳き始めた彼の手に目を閉じた。結局どうしてシュラが私を大事にしてくれるのか、その正確な理由はよく分からない。けれどようするに私が彼に何か返したいと願う気持ちも、シュラが私に何かをしてくれる気持ちも、たぶん同じ、愛しい気持ちから来ているのだろう。そんな仮定をして一人恥ずかしくなりシュラの胸に顔を隠した。

top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -