クレオパトラ夢主、サガにリボンをつける話
ぼんやりとサガと勝利女神を眺める俺の横にアフロディーテが立った。
「和やかな光景ととってもいいのかな?」
「…良いんじゃないのか」
適当にそんな返事をして、二人に視線を戻した。ちゅんとどこかで小鳥が和やかな声で鳴いたが、それさえもなまえの人形代わりになっているサガの耳には届いていないようで。サガは非常に疲れた顔で彼女を見下ろす。
「い、いつまでつけるのだ?」
「待って、もうちょっとで終わるから!!」
そう言って色とりどりのリボンをサガの髪や服にくっつけていくなまえを眺める。あっという間に、いつもの黄金聖衣とは違いファンシーな雰囲気をまとうことになったサガだが、正直言って彼が30近い男だということを考えてみれば気持ちの悪いものでしかなかった。
「サガは顔が綺麗で、素敵な金髪だからお人形みたいで可愛いね!」
「…人形…」
となりでくすくすと笑ったアフロディーテが、なまえを眺めて本当に面白い女神だと呟く。だが当の本人はそんなことを知りもせずに目を輝かせてサガを見つめていた。
「あっそうだ!髪の毛巻いてみない、サガ!?」
ベル○ラの登場人物みたいになるかもと訳の分からないことを口走ったなまえに、今度こそサガは首を横に振った。俺も同時に巻き髪のサガを想像して少し気持ちが悪くなる。まるで中世の貴族、それか縦ロールの音楽家だななんて考えていると、彼女がふいにこちらを見た。その視線はまっすぐにアフロディーテに向けられている。なんとなくこの後の展開が予想できてわずかにアフロディーテから距離を取った。予想通り駆け寄ってきたなまえがアフロディーテの手を取る。
「ディーテも是非!リボンをつけさせて!!シュラもするっ?」
「お断りするよ」
「断る」
「そんな!それでサガの隣に座って記念撮影とか…」
「君はよくそんな悍ましいものを見ようと思うね」
実に悔しそうな顔をしたなまえだったがすぐに顔を輝かせて何かを言おうとする、
瞬間顔面から地面に倒れこんだ。
「ぶっ!」
「…デスマスク」
いつものごとく彼女を蹴り飛ばしたのは昔馴染みともいえる男で、デスマスクは倒れこんだなまえの前に仁王立ちになる。それを見たサガが顔を真っ青にして駆け寄ってきた。
「デスマスク!!なんてことを!!」
「サガ、お前も黙っていないで言いたいことは言え!」
「彼女は女神だ!少しはそれを考慮した行動を…、」
サガの言葉を聞き終わる前にデスマスクが鼻で笑った。そうしてなまえの襟首をつかんでつまみ上げる。たたきつけられたのか、真っ赤になった鼻を抑えたなまえが涙目のままこちらを見て、そして言った。
「リボンがダメならレースでも」
Das darf man nicht!!
(もう勘弁してくれ!)
あまりのずれっぷりにサガは苦笑し、アフロディーテは呆れたような顔をした。そしてデスマスクはもう一度、彼女の頭に拳骨を降らせた。俺は、そうだな、もうしばらくこの奇妙な女神を観察してみることにしよう、か。
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