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アコーディオンを弾いてみる。自分でも分かるほど上手くないなと思いながら、ちぐはぐな音符を紡いで、正面に座る彼を見た。

「手風琴、聞こえる?」
「ああ」

手元の本に目を落としながらそう言ったウィルにため息をつく。つまらない反応、聞こえていたとしても、聞いてはいないに違いない。先ほどから適当な返事しか返してこないのだからそれは間違いではないだろう。本当につまらない。

「ウィル、暇」
「ああ」
「退屈!」
「ああ」
「お昼ご飯はダイアナちゃんのご飯だったっけ?」
「ああ」
「………」
やはり聞いていないようだ。お昼ご飯はパスタだったじゃないか。あまりにもいい加減な返事にもう一度小さく息をついた。そうしてまた下手くそなアコーディオンをいじる。D、E、A…、ダメダメだ。指が回らない。

「ねえー、ウィル、退屈」
「ああ」
「………」

駄目だこいつ、早くなんとかしないと…!

「ねえ」
「ああ」
「………」
ぺらりぺらりと本をめくる音だけが静かな部屋に響く。ちらりとウィルを見たが、彼の視線は完全に本に落ちている。やっぱり何も聞いていないのかと私も目を伏せて、部屋を出ようか考える。けれどそれだけじゃ何かくやしい。最後に何か、…そう思いながらアコーディオンに指を添えた。唯一弾ける曲、曲名は知らないが、確かアコーディオンには向いていないものだったと思う。やはりちぐはぐな演奏になってしまうがどうせ彼も聞いていないのだろうからと気にせずにつづけ、呟いた。


「…ウィル、好き」

その瞬間すぐさま目を丸くしてこちらを見たウィルと目があう。

「…なんていった?」
「………聞こえていたくせに」
本当は全部聞いていたんでしょと言えば、彼は頭をかくと本を閉じた。

「…ああ、聞いていた、下手くそな手風琴をずっとな」
「あまりにも下手すぎて聞こえないふりをしていたってこと?」
「お前がぎゃあぎゃあと騒いでいたからだ」
「可愛かった?」
「何故そんな思考になった?脳に寄生虫でも住み着いているのか」
「…ぶっ飛ばされたいの」
「できるもんならやってみろ」

鼻で笑ってそう言ったウィルにクッションを投げつけてやろうかと思ったが、どうせ後で片づけるのは私だと考え直す。そんなわたしを見ていたウィルがすぐにそっぽを向いて続けろと言った。

「あら、下手くそな演奏を聴きたいなんて御大層な耳をお持ちなのね」
「言ってろ」

そう言って笑った彼を睨み付けたが意味もなく結局あきらめて鍵盤に指を置いた。いつも折れるのは私だ。まったく嫌な男だと思うが、それに惚れたのは私だ。本当馬鹿な女だなと考えて息をつき、アコーディオンを奏でる。下手くそでちぐはぐな演奏を、奏でる。黙って聞いているウィルに、「好きよ」ともう一度呟けば、彼は薄く笑って知っていると呟いた。

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