「なまえ、目を傷めるぞ」
「光を見ているわけじゃないわ」
「…ならこれは私の勘違いではないということか?」
そうよ、そういうこと。私が望遠鏡で覗いているのは貴方の想像通り、貴方の目だもの。
望遠鏡を顔から遠ざけて机の上に置いた。目の前に座っていた彼が呆れたようにそんなことをして何になると言ったのを聞いて笑いかける。
「心の中が覗けたらいいのに、って思ったのよ。ほら、テレスコーピオって遠くまで見えるでしょう?」
「心など目に見えるものではない」
「うん、そうみたいね」
少し残念だったけれどと言って望遠鏡をひと撫でした。本来ならこれを使って星空観測でも楽しみたいところだが、生憎海の中を走行中のこの艦の中から星空が見えるわけもない。
「だからほかになにか使い道がないかと思ったの」
「それで何故心を覗くという話になったのかは理解しかねるが、そんなものを覗いてどうするつもりだった?」
「アンジェロ少尉の恋人でも分からないかと思ってね」
そう言ってもう一度望遠鏡を手に取って覗いてみた。近すぎてよく分からない。
「そんなものを知ってどうする?」
「諦めがつくかもって思って」
「…なに?」
「そのままの意味よ。…どうぞ」
望遠鏡を彼に手渡す。何かが覗けるかもしれないわと言えば、アンジェロ少尉は少し眉を潜めたがやがて望遠鏡を覗き込んだ。たぶん彼の目にも今、よく分からないものが映っているはずだ。
「…このようなもので何かが覗けるかどうかは分からないが」
「ええ」
「自身で伝えることはできるのだろう」
「…なにを?」
望遠鏡を返されて、またそれに目を近づける。たぶんそれを眺めていたアンジェロ少尉が言った。
「恋人などいない」
「あらそうだったの、珍しい。いき遅れちゃった?」
「失礼な、望遠鏡などを使わずとも見える人間を私はずっと慕っているというのに知らないふりをして、挙句馬鹿にするつもりか、なまえ」
「え」
テレスコーピオ
(あ、見えた)
(まっかっかな彼が)
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