「ショートケーキモンブランチョコケーキホワイトチョコケーキタルトベークドチーズケーキ…」
「…とりあえず落ち着け、なまえ」
双児宮に入った瞬間そう言った私に、サガは読んでいた本から顔を上げてこちらを見た。
「クーヘンマーブルケーキプチフール」
「ギリシア語で頼む」
何か用かと続けたサガに頷いて手元の白い箱を差し出す。
「デスがケーキを作ってくれたの」
「良かったではないか」
「サガと一緒に食べたい」
そう言えば彼は目を丸くした後に微笑んで箱を受け取り「ついて来い」と言った。そんな彼に続いて私室のほうへ向かう。コーヒーを煎れてくるから座って待っていろと言ったサガに頷き、古い木の椅子を引いて腰かけた。小さいころ、よくロスとサガと座ってご飯を食べた椅子だ。懐かしいなあなんて考えていれば、すぐに戻ってきたサガがコーヒーを二つ机の上に置いた。真っ白のカップはサガの。ハートがいっぱいで、カノンに趣味が悪いと言われたカップは私の。双児宮に置きっぱなしにしているそれに入ったコーヒーを受け取る。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
「ケーキはね、プチフールだから、いろいろな種類が食べられるんだよ」
「それは良かったな」
「サガは何が良い?」と箱を開けながら問えば彼はなんでもいいと言って椅子に座った。
「なまえから選べばいい」
「私もなんでもいいんだけど…、あ、じゃあちょっと包丁借りてもいい?」
「好きにして構わないが…」
そう言った彼に礼を言って台所へ駆けて包丁を手に取り戻る。何をするんだと不思議そうに私を見た彼に全部半分に切り分けると言えば眉を寄せられた。
「半分?」
「うん、半分こにしよう!」
そう言えば意味を理解したらしいサガがふっと表情を緩める。
「なまえは不器用なのにこんな小さなケーキを上手く二つに切れるのか?」
「からかわないでよ、もう!」
「ああ、すまない」
笑いながらそう言ったサガに私も笑いながらケーキを切りわける。うん、不格好だけれど問題は食べられるかどうかだからね!
サガは相変わらず穏やかな目で私を見る。そんななんてことのない時間がふととても幸せに思えて頬が緩んだ。それに怪訝そうな顔をしたサガに笑いかける。
「ねえ、サガ」
「なんだ?」
「好き」
そう言った私に目を丸くしてこちらを見たサガがすぐに表情を緩めた。
「ありがとう」
「ケーキと同じくらい好きだからね!」
「…それは喜んでもいいのか?」
「だって私、ケーキがないと生きていけない」
私の言葉に目を丸くしたサガが「太るぞ」と言って、それでも嬉しそうに笑った。切り分けたプチフールの半分を渡せば、笑って受け取ったサガの隣に座る。そしてコーヒーと一緒にサガが持ってきていてくれたフォークでモンブランをさして口に運べば、すぐに口内に広がった甘さに頬がゆるゆるになった。甘いものって最高だと表情を緩めたまま言えば、それを見ていたサガがまた笑う。
「ケーキを作った人は神になるべきだよね、ケーキ大好き」
そう言いながら、ケーキを口に運ぶ私を見たサガが「先程の話」と呟いた後に笑みを浮かべたまま話をつづけた。
「私は愛している」
「それはケーキ?私?」
「さあ、どちらだろうか」
目を伏せてごまかすようにコーヒーに口をつけたサガに、もう一度「大好き」と言えば彼は本当に柔らかな表情を浮かべた。
(ケーキに詰まった幸せ)
(それはキラキラとした、)
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