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「…な、にをしているのですか?」


真っ暗闇の中でシーツにくるまりうずくまっているのが、なまえだということに気が付けたのは小宇宙のおかげだ。もし自分に小宇宙が分からなかったら今の彼女はただの不審者、それか亡霊のようだった。そんななまえが私の声に気が付いたのかシーツの隙間から顔をのぞかせてこちらを見た。

「ム、ムウ…!起きていたの?」
「いえ、水を飲もうと思ったのですが。…貴女こそ何をしているのです、なまえ?怪しいですよ」


そう言った私になまえはまたシーツに顔を隠してうずくまった。

まったく意味が分からない。と、その時強い風ががたりと窓を揺らして雨が打ち付けた。そしてすぐに轟いた雷鳴になまえがびくりと、それはもう大袈裟なほどに震えた。
それにまさかと思いながらも頭に浮かんだ仮説に、彼女の傍に歩み寄る。


「雷、お嫌いでしたか?」
「…笑わない?」
「笑いませんよ」

そう言って優しく頭を撫でてやればなまえは小さく頷いて嫌いだと言った。

「音とか、すごく嫌い…」


そう言ってシーツにくるまったまま丸まったなまえに少し困る。
このままこの状態の彼女をリビングに放置しておくのはひどく可哀想な気もするが、部屋に戻すこともできないからだ。
恐らく彼女は部屋に一人でいるのが怖くてこの場所に出てきたのだろう。そんななまえを無理に部屋に戻すこともできない、…が、やはりここに放置しておくこともかわいそうだ。

だが一人で過ごすのが怖いということなら、誰かと一緒にいれば彼女も安心して部屋に戻って眠れるのだろう。問題はその“誰か”だ。

…シオンは、論外ですね。いろいろな意味であの方とこの子を一緒に眠らせるのは不安が多い。
私、もやめておこう。不測の事態が起こりかねない。となれば、今この白羊宮に残っているのはたった一人。

「なまえ、貴鬼と一緒にお眠りになったらどうですか?」
「貴鬼ちゃんのベッド小さいから私入れないよ…!」
「では貴女のベッドに連れて行って、」
「起きちゃったら可哀想…。だ、大丈夫よ、ムウ、もう少ししたら私部屋に戻るから、ムウは明日も早いでしょ?部屋に戻って、ぅひゃあっ」
「っ!!」

轟いた雷鳴になまえが飛び掛かってくる。そのまま腹部に軽い衝撃を受けたことに驚いて視線を落とせば抱き着いて震えているなまえが目に入った。

「え、…なまえっ」
「ち、近くに!近くに落ちたよ、ムウ!!」
「そっそうではありません!女性が不用意に男に抱き着くものでは…!」
「やだやだ怖いもん!!」

ぎゅうとさらに力を強めたなまえに頬に熱が集まるのが分かった。彼女は暖かいのだな、とか柔らかいものが当たっている、とか、あああ、煩悩よ去りなさい!!ここはお前のいるべき場所ではない!


「ム、ムウ、」


止めてください、上目づかいで見上げるのは止めなさい、目じりに涙をためて潤んだ目で私を見上げるのはよしなさい、あああ煩悩は早くお帰りなさい!見送りが必要ですか!

「い、一緒に、寝て?」

僅かに小首をかしげるのは、やめて、くださ、


「傍にいて」


ぷちんと自分の中で何かが切れたのが分かった。


「なまえ」
「ムウ…?」


がっしりと肩を掴む。

シーツ越しの細い肩を感じながらなまえの顔を覗き込んだ。黒い潤んだ目と視線が絡んで、もう何もかもがどうでも良くなる。どうぞご自由にお過ごしください、煩悩。



「誘ったのはなまえだ」


そう言いながら彼女をシーツごと横抱きにする。驚いたらしい彼女が「うひゃあ!」なんて叫びながら私の首に腕を回した。ああなんて可愛い。そんななまえの頬にそっと口づけを落として「貴女が悪い」と耳音で囁いた。


「え?ちょ…な、なんの話、」
「知らぬふりをしても無駄ですよ」


にこりと笑みを浮かべて目を丸くしたなまえを見下ろした。ゴロゴロとどこかでまた稲妻が轟くのを聞きながら、向かう先は、寝室。それに目を丸くしたままこちらを見たなまえににこりと笑いかけて一言。


「逃がさない」

ようやく意味を理解したらしいなまえの顔が、真っ赤になった。


天気は大荒れ。
(けれどそれが何だというのでしょう)
(そんなことから彼女の意識を私に向けさせた)

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