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「一輝、これじゃあ私何もできないよ」

さっきから私の手を掴んで離さない彼に少し困ってそう言う。今はまだいいが、夜になったらお風呂にだって入るし、その、おトイレとかだって…。それにそういったことを除いても、常に手を掴まれている状況はなかなか不便だ。

ぐいと引っ張ってみるが、駄目だ、もともとの力がまったく違うから離れそうもない。ううん、これは困ったと一輝に向き直る。目があった瞬間ぷいとそっぽを向いた彼にさらに困りながらも無理やり顔を覗き込んだ。幸か不幸か腕を掴まれているので、距離に問題はない。

「一輝ー」
「…黙れ」
「えええ、ひどくない?」
横暴すぎると呟いて彼の顔を見た。眉間にしわがよって、なんとも不機嫌そうではないか。…とりあえず、私たちに必要なのは話し合いだと思う。落ち着いた状況での話し合い。

そう思って紅茶でも淹れようと立ち上がった私の腕を、彼がまた強くひいた。そのため結局椅子に座り直す羽目になって開いている片手で頭を抱えた。「あのね、一輝」「黙れ」「ちょっと、何をそんなに怒っているの」そう聞いていても、こちらを見向きもしない一輝にいよいよ泣きたくなってきた。

「ねえ、」
「…お嬢さんと出かけたらしいな」
「え?…ああ…、お買い物に付き合ったのよ」
「昨日は星矢と氷河とアテネに行ったと聞いた」
「沙織ちゃんにお菓子でも買って行ってあげようって話になってね」
「今日は何処に誰と行っていた?」
それを聞いてようやく、彼は私が誰か別の人間といて、待ち合わせに遅れたのではないかと疑っているということに気付く。そうだと仮定すれば私が部屋に戻った時から彫刻のように刻まれていた彼の眉間のしわと、不機嫌そうな態度と、それから掴まれ続けている腕が理解できるというものだ。まったく、大人に見えて、こういったところはまだまだ子供だなと苦笑して彼の手に手を添えた。

「今日は一人。茶葉がきれそうだったから、新しいものをもらいに行っていたの」
遅れてごめんねと再度謝れば、彼はしばらく黙り込んだがやがて「そうか」と呟いた。良かった、分かってくれたと思ったのだが、手が離れる気配はなく少しばかり不安になって彼の顔を覗き込む。

「一輝?」
「…なまえ」
「うん?」


腕に力が込められて、どうかしたのかと言いかけたとき彼の真っ黒な目と目があい言われた。


「こうしていれば、お前が俺から離れることはない」



だから離さないと言って腕に力を込めた一輝に、私は自分の顔の温度が急上昇していることに気付いた。


(ねえ、それってどういう意味!!)

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