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「おはよう、」
うっすらと目を開けたサガの視線がしばらく宙をさまよって、やがて私を映し出した。まだ眠いのだろう、瞼を瞬かせて、うつらうつらとしている。しょうがないか、帰ってきたのは夜中だもんね。まだしばらく寝かせていてあげようと頭を撫でて髪を梳いてやる。

「サガ、まだ眠っていて良いよ?」
「…なまえ、今は、何時だ?」
「まだ五時半」
「五時半、」

彼が双児宮に帰ってきてからまだ二時間しかたっていない。今日は休みと言っていたし、まだ眠っていても大丈夫だろう。そう考えながら梳いていた手を止めてぽんぽんと頭を撫でてやった。サガの瞼が閉じられる。

「おやすみ」


しばらく彼の寝顔を眺めて、そろそろ起きようと心を決める。
外の低い気温に対して、二人分の体温で暖まった寝台から抜け出すのは至難の業だ。勇気も必要だと思う。だが私は出なければならない。朝食を作らないと。確かデスマスクさんとシュラさんに頂いたベーコンがあったから、あれを炒めて、それから卵は…スクランブルエッグにしよう。あとパンを焼いて、コーヒーを煎れて、ううん、野菜がないなあ…、あ、昨日の残りのサラダがある。確かオレンジジュースも買っておいたはず。それにヨーグルトを加えれば、うん、完璧な朝食だ。

「…何処へ行く?」
「朝ご飯作らなきゃ」

のそのそと寝台から這い出ようとした私の腰に彼の手が回された。当然のようにサガにがっちりとホールドされると私には抜け出すことなんて不可能だ。これは困ったことになったと思いながら若干寝ぼけているらしいサガの肩に手を置いた。

「サガはまだ眠っていていいから」
「…なまえ、ここにいてくれ」

ぐいと抱きしめられて寝台の中に引きずり戻された。私より遥かに大きいサガにがっちり掴まれて足が絡められる。とても抜け出せるようなものではない。何これ、何なのこれ?(なんというか、抱き枕のような扱いではないか?)
どうすべきか分からず固まった私を眠たそうな目で見たサガが笑う。

「…キスをしてくれないか」
「ちょ、ちょっとサガ、」
「どうかしたか?」
「ふざけているの?」
「まさか」
「あ、だよねー…」
「傍にいてくれ」
「…寝ぼけてはいるみたいだね」

苦笑いした私をじっと見ていた彼がふいに微笑んで、口づけてきた。「は?」、あまりに突然の出来事を理解できずに彼を見上げれば、サガは実に満足げな顔で笑って言う。

「おやすみ、なまえ」
「え、ちょ…」

すっと目を閉じてしまい、もう私の言葉など聞こえないかのように眠ってしまったサガに困惑する。この状態からサガを起こさずに抜け出すのは不可能だろうし、そもそも彼から逃げ出すこと自体不可能に思えた。
「…」
取りあえず朝食作りは諦めて、もう一度眠らなければならないのかと時計をちらりと見る。まだ五時四十五分だ。もう少しくらいは眠りこけても許される、だろう。そう考えてサガの頬に口づけた。

「おやすみ、サガ」

眠ってしまった彼に微笑んだ。なんだか、本当に些細なことなのにこうして一緒に惰眠を貪れることがとてもとても幸せで。

きっといい夢が見られるそんな気がした。


まるで童話のように
(ふわふわした砂糖菓子のような夢を)

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