Project | ナノ
「ミロ、貴方そんなに食べて太っても知らないわよ」
(ああもう私の馬鹿、どうしていっぱい食べてねとか食べてくれて嬉しいとか言えないの!?)

「誰にも手を付けてもらえずに残される食材が可哀想だからな」
(ああくそ俺の馬鹿、何故普通に美味いとかありがとうとか言えないのか!!)

「なによ、文句言うなら食べなければいいじゃない!」
「俺が食べなかったら誰が食べるんだ?」
「か、カミュ!貴方なら食べてくれるわよね!」
「ああ」
「ほら見なさい!」
「おい、カミュ!!腹を壊してもしらないぞ!!こいつの料理を食べると胃の中でブリザードが吹き荒れる!」
「失礼ね!!これでも料理人よ!?そんなもの出さないわ!!ていうかそれどんな料理よ!!」
そう怒鳴りつけて水の入ったコップをミロの前にたたきつけた。若干中身がこぼれてテーブルを濡らしたが布巾をたたきつけて済ませる。本当に私は馬鹿だ。謝って自分で拭けばいいのに、そんな簡単なこともできないなんて。

「……」
ミロのことは嫌いじゃない。そういうわけでもないし、むしろその逆なのだがどうしても素直になれない。ああもう私の馬鹿と溜め息をついた時ミロが私を見た。

「…おい、なまえ」
「なに?」
「…焦げ臭いぞ」
「…ん?」

ミロのその言葉に顔を上げる。焦げ臭い?…確かに言われてみたら焦げ臭いかもしれない。でも、なんでだろう…、…
「ああああ!!クッキー焼いていたんだった!!」

行儀は悪いが、そんなことに構っていられるかとばたばたとその場から台所に駆けこみ、すっかり焦げた臭いを発しているオーブンを開ける。想像通り中から出てきた炭に頭痛を感じた。あり得ない、こんな初歩的な失敗。クッキーを焼いていたことを忘れて焦がしましたって仮にも料理人の失敗じゃないでしょう。しかも、もはや焦がしたというレベルではない。そもそもこんないまどきドラマや漫画でも使われないようなミス、
「…っ、絶っっ対馬鹿にされる…!!」
「へえ、誰にだ?」

項垂れた瞬間、背後からそう声がかかる。よく知ったそれに慌てて顔を上げた瞬間、後ろから伸びてきた手が炭の塊を一つ掴んだ。うわっ、ぼろっていった。ぼろって。完全に炭化した哀れなクッキーに合掌してから、声の主を振り返った。

「…何しているの?」
「見て分からないのか?」
「炭を食べているのね」
「クッキーだろ」
「…いいえ、炭よ」
「クッキーだ」
そう言ってもしゃもしゃと炭を口の中に突っ込むミロを見上げた。この人は馬鹿だ。どうみてもクッキーではないし、真っ黒焦げになったそれはお世辞にも美味しいとは言えないだろう。それを、嫌な顔一つせずにクッキーだと言って食べるなんて、



本当になんて馬鹿な人!
優しさにもほどがある。それに彼はいつも私を馬鹿にしてばかりだから、余計に驚かされた。けれどその優しさがじんと胸にしみたのを感じて目を伏せる。

今なら、言える気がする。

「…ミロ」
「なんだ?」
「…ありがと」
私の料理人としての顔を立ててくれて、と続けて言おうとした瞬間、彼が声を上げた。

「なに?」
「熱かった」
「そりゃあ焼き立てブスブスだったしね」
「人に料理を出すときは火傷しないように気を使うべきだ!!」
「貴方が勝手に食べたんでしょう!!」

そう言いながらも彼にミネラルウォーターのペットボトルを押し付ける。この人は馬鹿だ、本当に優しくて、馬鹿な人。わざと失敗した料理から話をそらしてくれた。炭でも料理と言ってくれた。この人は、馬鹿だ。(でも、ありがとう)

「ねえ、ミロ」

私貴方のそういうところ嫌いじゃないわ、ようやく言うことができそうだったその言葉を聞く前に彼が言う。「もう少し甘いほうが良い」、そう言う。少しは雰囲気を読むことができないのかと、ペットボトルに口をつけた彼に砂糖の袋を叩きつけた。

けれど決してまずいとは言わない彼に今晩は彼の好物でも振る舞ってやろうと決心したのはまだ秘密。





「なまえ、」
ミロが帰った後、声をかけてきたカミュに向き直る。そういえば彼のことをすっかり忘れていたと申し訳なく思いながらどうかしたのかと問う。そうすればカミュは実に澄ました顔で爆弾を一つ落としてくれた。


「私はいつまでお前たちのくっつきそうでくっつかないラブコメディを見続けなければいけないのか」
「…は…、」


私は断じて悪くない
(ただちょっと意地っ張りなだけなのです)

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