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長い金髪が少し鬱陶しかった。
切ってしまおうか、なんの気なしに口に出した言葉に、草木を眺めていた彼は目を丸くして顔をあげた。

「切ってしまう、のか」
「まだ決めたわけではありませんが…、やはり長いと少し面倒ですから」
「…そうか」

そう言って目をそらした彼に首を傾げる。
言いたいことがあるのならはっきり言ってくれといつも言っているのに、親しくなるにつれて、彼は口ごもることが多くなった気がする。初めの頃はなんでも言ってくれたのに。(その多くが罵倒だったことは少し忘れたいのだが)

「なんです?」

少し身を乗り出してはっきり言ってくれと告げれば、彼はたっぷり宙に視線を泳がせた後に、やがてぽつりと呟いた。

「勿体ないと、思ったのだ。そんなにも綺麗な髪を切ってしまうなど」
「綺麗、ですか?これが?」

少し、拍子抜けだった。こんなものが綺麗なのか。彼だって同じ金髪を持っているのに。綺麗と感じるのか。でも、なんとなくほわりと胸が暖かくなった気がして椅子に座りなおした。

考えたこともなかった。自分の髪のことなど。綺麗、か。

「貴女の髪はまるで太陽のように輝いている」
「それならお揃いですね」

そう言って微笑みかければ、彼は穏やかな雰囲気を纏って目を伏せた。
綺麗、という言葉が何度も頭の中をぐるぐると回った。同時に胸が暖かくなっていく。彼の言葉には、何かしらの魅力が含まれているのだ。魔力のような、抗いがたい、それが。

それが、彼自身の力なのか、それとも私の意思によるものなのか、いまいち正確な答えを出すことは難しいように感じた。

ふいに黙り込んだ私を心配そうな目で見た彼に微笑みかける。何も、心配するようなことはないのに。


「幸せとはこのようなものなのかと、考えていたのです」
「…こんなことが幸せなど、」

自分などでは、人に幸せを与えることなどできないと言う様に眉を落とした彼の言葉を遮るように首を振った。大きなその手を両手で包む。
この人は優しい。優しすぎる。優しすぎて、すべてを守れない自分を否定してしまう。だから、この人という存在が、どれだけ私を恍惚に酔わせるのか、彼は知らないのだ。

ああ、人とはかくも甘美で愚鈍なものなのか。


「ありがとう」

そっと彼の頭を抱いた。大切で、愛おしい人の、彼の熱を感じて、胸がかき回されるような感情を得て目を閉じた。この感情の名前を、私はまだ知らない。

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