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なまえが部屋から出てこなくなった。
理由も分からずにただ困り立ち尽くす。

カノンも女神もそのことを相談してもにやりと笑うだけでまともに取り合ってもくれない。それはデスマスクやアフロディーテ、シュラも同じだった。アイオロスに関しては論外だ。「アイスでも食べすぎて腹を壊したんじゃないのか」ときたものだ。なまえはそんな馬鹿な真似はしない。

「なまえ?」

彼女の部屋の扉を叩く。
ごとりと何かが落ちた音が響き、すぐに沈黙が広がった。居留守を決め込むつもりらしいが、小宇宙と気配でバレバレだ。再度名前を呼ぶ。「なまえ」「……………なんでしょう?」かなりたってからぽつりと中から返事が戻ってきた。

「何故出てこない?」

私が出かけている間くらいは部屋から出ているのだろうが、ともかく私が双児宮にいる間彼女は部屋に閉じこもる。そのためもう何日も顔を見ていない。そうすると心配になってくるし、彼女の可愛らしく落ち着く笑顔が見たくなってくるのだ。

このような下心があるからなまえに何か不愉快な印象を抱かせてしまったのだろうか?
もしそうだとするのならば、それに関してはしっかりと謝罪を述べたい。だからそのためにも私はなまえに部屋から出てきてほしいのだ。私の質問に黙り込んだなまえにもう一度、扉越しに声をかける。

「なまえ、部屋から出てきてくれないか」
「すみません」
「謝罪が聞きたいのではない、なまえ」
「違うんです、駄目なんです、本当、どうしても出られないんですよ」

切羽詰まったその声が紡いだ言葉が理解できない。もっと分かりやすく言ってくれと頼めば、なまえはさんざん黙り込んだ後に扉の向こうで声を張り上げた。

「さ、サガがいるからです!」
「な…っ、なに?」

随分と失礼なことを言ってくれる女性ではないか。それとも、もしや彼女は私のことを嫌っているのか?だとしたら、ああ、一体私はどうすればいいのだろうか。なまえの笑顔を見たい。なまえと向かい合って会話をしたい。だが彼女が私を嫌っているのだとしたら、私のその願望はなまえにとって、ただ迷惑なだけのものになってしまう。

扉を挟んで別の空間にいる私がそんな考えに、体を固めたことなど気付かないらしいなまえが口早に続ける。

「知っています?人間は心臓の打つ回数が決まっているんですって!だから長生きするにはあんまりドキドキしたりびっくりしたりしちゃいけないと思うんですよね!でも、サガといると駄目なんです。心拍数が上がって意味分からなくなりますし…!でも決して嫌いなわけじゃないんです、さりげなくドアを開けてくれたり頭を撫でてくれたり、サガには他意なんてないのは知っていますが、何か私の為にサガがしてくれるとうれしくて、それで、どうすればいいか分からなくって、でも心臓は早くなるし、ほっぺは熱いし、」
「……風邪か?薬を持ってくるべきか」
「そういうこと言うからもっと出られなくなるんです!サガの鈍感!!」


そう叫んだ彼女はその日もう私が何を言っても返事をすることはなかった。

(一体私が何をしたのだというのだろうか?)
(鈍感な貴方に気付いて意識してほしいって思う私は我儘ですか!?)

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