Project | ナノ
薔薇園で高く上がった噴水に頭を抱えて、飲みかけの紅茶をカップの上に戻した。あの場所に噴水などない。というか、十二宮に噴水などない。ゆえに、あれは誰かがやったことなのだ。そう、誰かが。

「…そんなことは分かりきっているな」

高く空に舞い上がった水に小さくため息を吐いて薔薇園に入る。その奥で、わたわたと駆けまわる黒髪を見つけて名前を呼べば、目じりに涙を浮かべて顔を真っ青にしたなまえが振り返った。

「…あっ、ディーテ!!大変なの!!水道管割っちゃった!」
「割っちゃったで済む問題ではないだろう」

薔薇に水をやりすぎてはいけないんだと言いながら穴の開いた水道管に丁度いい大きさの石を詰めた。まだ若干水が漏れているが、生憎私は水道屋ではないし水道管なんてものも持っていないからこんなことしかできない。あとで雑兵にでも直させておこうと考えながらの応急処置を後ろから覗いていたなまえが肩を落とした。

「ごめんなさい…」
「…済んだことだよ」

次はやらないと学習してくれるのなら落ち込まなくてもいいと頭を撫でてやればようやく笑みを浮かべたなまえが頷いた。「うん!次は気を付けるね!」「ああ、そうしてくれ」さて、これでようやく紅茶を飲み直せると思った私をなまえはやすやすと裏切ってくれた。「ディーテ、危ない!!」突然私の前に立ち、前方に向けて拳を振り上げる。その場にいた人物はひどく驚いて小さく声を上げながら片手でその拳を受けた。

「な、んだ、突然!!」
「カノンか」
「ディーテ危ないわ!この人超狂暴なのよ!私聖戦のとき、この人に殺されたんだから!!」
「…ああ、こいつがアテナの仰っていた冥闘士か」

俺はこんなやつを殺しただろうかと言いながら、お前も苦労するなという目でこちらを見てきたカノンに頭を抱えながらなまえの襟首を掴んで引き戻した。

「すまないな、カノン。この子には私からよく言っておくから拳骨三発くらいで勘弁してやってくれ」
「おい、俺がさらにこいつの中で悪役になるだろうが」
ただでさえ俺はこの女の中では殺人犯らしいからなと鼻で笑ったカノンをじいと睨み付けるなまえの頭に拳骨を落とす。

「いたっ」
「カノンは聖域の仲間だ。手を出すなら君を追い出さなければいけないね」
「ええっ、嫌よ、ディーテ!!」
「なら謝るんだ。カノンは何も悪くないのに君が突然殴りかかったのだから」
仮に聖戦の時に殺されていたとしてももはやあの時のことは三界の平和条約で今更とやかく言わないことになっているのだからとなまえの頭にぽんぽんと手を置いた。

「うっ」
「なまえ」

咎めるように名前を呼べば、なまえは言葉に詰まったあとに、ぽつりと小さな声で、だがはっきりと言った。
「ごめんなさい…」
「気にするな」

それに目を伏せながらカノンがわしわしと頭を撫でてやった後に双児宮のほうへ戻っていく。その後ろ姿をじっと眺めていたなまえが真っ黒な目で私を見上げて呟いた。

「…あの人、良い人?」
「さあね」
「でもね、ディーテのこと守りたくて、私」
「君に守ってもらわなければならないほど私は弱くない」
額を軽く小突く。何か言いたげに視線を泳がせたなまえだったが、やがて私の言葉に素直にうなづいた。

「…ほら、薔薇に水はやり終わったね?なら戻るとしよう。そろそろ洗濯物を取り込まなければいけない」
「ディーテの下着は私が畳むわ!!」
「なるほど、君は白薔薇の餌食になりたいらしい」
「ひいっ!冗談よ!!」
顔を青ざめさせてばたばたと薔薇園から駆けていったなまえの後ろ姿を追う。本当に、一人にしておくには不安で不安で仕方がない。

私が追っていることに気が付いたらしいなまえが、洗濯物の前でくるりと回ってこちらを見た。
「来てくれたの!」
「君一人では不安で仕方がないからね」
「やっさしい!ディーテのそういうところ、好きー!」
そう言ってえへへと笑ったなまえが、洗濯物を見ないで引っ張る。何を考えていたのか知らないが力いっぱい、ひっぱる。結果、当然のごとく竿ごと洗濯物がなまえに倒れる。ガシャンと大きな音を立てて床に散らばった洗濯物に小さくため息をついて、なまえのもとへ駆け寄った。

(この馬鹿!)
(ごっごめんなさあああぁぁい!!」
(まったく少しは考えて行動をしろといつも言っているだろう!ほら、頭をぶつけただろう、見せるんだ!)





わざとじゃないのよ!


(冥闘士に攻撃を食らったぞ、サガ)
(何?アテナは大丈夫だと仰っていたが、)
(ああ、アフロディーテのボディガードにはぴったりだろうな)
(…ああ、そういうことか。…だがカノン、それは少し間違っているぞ)
(…?何がだ?)
(なまえはアフロディーテを守ろうとしているが、本当は逆だよ。あの子があんなに過保護だとは思わなかった)
(……なるほど相性は悪くないようだな)

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