はあ、とため息をつけば、眼の前に座っていたミーノスが書類から顔を上げて私を見た。
「どうしました、なまえ?」
「うん…、最近なんか調子悪くて」
夜もあまり眠れないしと言えば、ミーノスの手が頬に添えられた。確かに少し顔色が悪いと言った彼に頷いてもう一度小さく息をついた。
「何か気になることでもあるのですか?」
「気になることっていうか…、たぶん気のせいだと思うんだけれど、物陰から視線を感じたり、物がなくなったりするんだよね…」
「なんですって?確かにそれは少し気になりますね」
「でしょー?」
けれどそんなことは恐らく気のせいなのだ。誰が私なんかを眺めるものか。私なんかを眺めるのはよっぽど暇人か物好きな奴に違いない。だが生憎私の知る限りでは冥界にそんなやつはいない。
疲れか何かを原因にした被害妄想に違いないと、ミーノスに心配をかけさせないように、けらけらと笑いながらコーヒーを飲んだ。
「本当に気のせいですか?」
「うん、そう思うよ」
そう。気のせいだとは思うのだが…、それにしても感じる視線はやはり気味が悪い。
だがこれでも私も冥闘士、ただの人間の気配や視線くらいならすぐに分かる。だがその視線はなんとなく感じる程度で確信にまではいたらない。だから気のせいなのだろうと思う。
でも、
もしもの話だ。
仮に誰かが私を見ているのだとしたら。
相手は私と同等か、正体を知ることができないあたり各上の相手なのかもしれない。
聖闘士?いや、聖闘士が冥界にいるわけがない。それは海闘士も同じこと。では、冥闘士の仲間たちだろうか…?
うーん、一口に冥闘士と言っても大勢いるから難しいなあ。
ラダマンティスさん?ううん、彼とはあまり親交がないから違うだろう。アイアコス?ふざけて遊ぶ中だが、彼は影からこっそり人を覗き見るようなタイプではない。ルネさん?…はっ、いつも働かないでミーノスとお茶ばっかり飲んでいるから怒っているのかもしれない!
「…苛められていたりして、あはは」
社内いじめだとふざけて言ってみた瞬間ミーノスの顔色が変わって肩に掴みかかられる。
「苛め…?…心当たりがあるのなら、その者の名前を早く言いなさい、なまえ!私が片付けて来ましょう!」
「ちょ、痛いってミーノス!」
強い力で肩を掴まれそう言えば、彼はぱっと手を離してくれる。
すぐに冗談だから落ち着いてくれと続けた私の言葉に、ミーノスは咳払いをして椅子に座り直した。
「冗談だから」
「しかし視線を感じたり物がなくなったりするのでしょう?」
「それは…そうだけれど」
「…ふむ、ですが本当におかしいですね。なまえが目を覚まし朝食をとり、任務に出て、そして休憩を取りつつ冥界に戻ってくる。そして夜湯あみを済ませ、寝台に入り眠るまで私は貴方を見ていますが、貴方をいじめている人間など心当たりがない」
「ちょっとまて、どこから突っ込めばいいのか分からない」
「ちなみに私はリップしかいただいていません」
「人のものを盗るな!ていうか本当どこから突っ込めばいいの、この馬鹿上司!!」
君を見つめる
(仕方がないのです)
(愛おしくて愛おしくて仕方がないのですから)
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