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「…何故笑っていられる?」

微笑んで抱きしめてきたなまえの腕の中でそう問いかける。柔らかくて暖かくて胎内に回帰したようなそんな馬鹿らしい気持ちになるほど優しいその中で頭を預けて思案した。
なまえは誰にでも優しい。いつも笑顔で、厄介ごとも引き受ける。他人に優しさを振りまいて本心は絶対に見せないから、だから時折ひどく不安にさせられる。
恋人である俺にさえなまえは本心を見せない。笑うだけ。何をしても笑って「大丈夫だから」「愛しているから」と繰り返す。疑いたくはないが、それでもそれが真実だと確かめるすべを今の俺は何も持たなかった。

「カノン」
「なまえ、何故笑っていられる」
「貴方が幸せなのが幸せだから」

そう言って笑ったなまえの背中に腕を回した。


「浮気した」


そう言った俺になまえは目を丸くした後に微笑んで「そっか」とだけ言った。本当に、それだけ。ひどく馬鹿らしい話じゃないか。これが恋人同士の会話なのか、

「…カノン?」
「お前はいつも、サガに優しくする」
「うん」
「面倒事も笑って引き受ける。本心なんて見せてくれないくせに、俺の中に居座る」
「ええ」
「何故俺に何も言わない?何故本心を隠す?俺はお前にとって頼る価値もない人間か」
「違うよ、カノン」

ぎゅうと背中に腕を回された。なまえの顔は見えなかったが、泣いているような気がして強く抱きしめ返す。

「ごめんね、カノン。不安にさせた?」
「………」
「ごめん、あんまり依存したくなかったんだ。面倒な女って思われるのが怖かった。大人ぶりたかったのかな、嫌われるのが怖かったの、カノン」
「馬鹿か、もっと本心を出しても構わん」
「うん、…うん、気を付ける」

そう言ったなまえが俺から離れた。ようやく笑みを浮かべた彼女の手が頬に触れた、瞬間つねられる。

「な、にをするんだ、なまえ!!」
「だからって浮気とか馬鹿じゃないの」
「お前のせいだ」
「なにその責任転嫁」

相変わらず頬を引っ張ってくるなまえの頬を引っ張り返す。よく伸びる頬だ。「いひゃい!」「俺だって痛い」「こんなお揃いごめんよ」「じゃあ離せ」精一杯伸ばし切ったところで手を離せば、なまえも手を離した。自分の頬は見えないが恐らく二人そろって片頬が真っ赤になった間抜けな顔をしているのだろうなと考えて笑えばなまえも笑った。かと思えば突然泣き出す。

「なんだ」
「う、うわきって、どこまでしたの」
「ああ、食事」
「…は?それだけ?」
「それだけだ」

他の女とそれ以上のことをする気なんて起きないと言えば、なまえは「馬鹿じゃないの」と言った後に抱き着いてきた。

「き、嫌われたかと思って不安になった」
「俺は好かれていないんじゃないかとずっと不安だった」
「大好きよ、ばかのん」
「ばかのんってなんだ」
「馬鹿なカノンってことよ」
「海底に沈めてやろうか」

そう言えばなまえはくすくすと笑ったあとに首に腕を回してきた。

「もうとっくに沈みきってる」
抜け出せないくらいに、貴方へと言って笑ったなまえが俺の頬にキスをした。ああそうかとそれでようやく理解する。何故あんなにも不安だったのか今となっては馬鹿らしい。大好きだと言って笑ったなまえにキスをして二人でベッドに倒れこんだ。

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