シュラは意外にも甘党だ。
スペインの食事やお菓子はとてつもなく甘いものが多い。だから、スペイン出身のシュラが甘いもの好きなのは当然のことなのかもしれない。
だが、眼の前で朝っぱらから溶かしたチョコレートに砂糖の振りかけられたチュロスを突っ込まれた時は、顔が歪むのをこらえきれなかった。しかもコップの底には溶けきれていない固形のチョコがごろごろと転がっているのだから、なおさら。
糖尿病になっちゃうよ、体が資本の聖闘士にはとんでもないことだよと言ってもシュラはまるで聞き入れない。ついでに言うと糖尿病になる気配も見えない。
たぶん、彼の体は砂糖九割で構成されているのだと思う。一般人とは違うのだ。だから糖尿病にならない。
だがやはり、と考えて目の前のシュラを見た。
パンに大量のはちみつをこれでもかと塗り付けている。
「ねえ、シュラ、つけすぎだよ」
「そんなことはない」
「だってそれ、パンにはちみつをつけているんじゃないよ、もはやはちみつにパンをつけている状態だよ」
私の言葉に「同じことではないか」と言ったシュラがはちみつ塗れのパンをかじる。見ているだけで胸やけをしそう。だがシュラは何を勘違いしたのか、私の分まで準備しようとする。それを制して彼の隣に座った。
「食べないのか、なまえ」
「私、朝ごはんはもう食べたもの」
ちゃんと健康的な朝ごはんをねと付け加えて自分のホットミルクに手を伸ばした。
はちみつを入れたらどうだとなおも勧めてくるシュラの言葉を断りミルクに口を付ける。
「蜂蜜は嫌いなのか」
「そんなことないよ、でも物には限度があるよね」
シュラのように甘味を主食にすることはできないと笑えば、シュラは澄ました顔で一度試してみると良いと言う。
決して交差しない私たちの食事情。こればかりはどうしようもないかと考えて呟いた。
「…ねえシュラ、私ははちみつよりシュラが良いよ」
それは特に考えなしにふざけて言った言葉。
むかーしおばあちゃんが私に、一度言った言葉は取り消すことができないのだからしっかりと考えて発言しなさいって言っていた。でも相手はシュラだし大丈夫か、なんて思ったとき。
シュラがスプーンを私の口に突っ込む。
口の中に広がったはちみつの甘みと香りに少し驚いた瞬間、シュラの顔が近づいた。あ、と思ったときにはもう遅い。彼に私の唇は食べられた。
(ああなんて甘い)
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