Project | ナノ
「痛いです、ミーノスさん、折れそうです」
「それは面白い」
「面白いもんですか、良いですか、人間は真っ二つになったら死ぬんです。中身が飛び出して死ぬんです」

お辞儀をしてすでに下がっていた頭をミーノスさんがさらにぐいぐいと抑え込むものだから、私のお辞儀の角度は面接用の角度の深いものよりさらに深く、鋭角どころかそのうち鋭角を通り越してしまうのではないかと思うほどだ。つまり鈍角だ。はたして人間の体の構造でそんなことが可能かどうかは問題ではない。それくらい私の頭が下がっているということ、そして私の体が硬いということが問題だ。そろそろ本気で真っ二つになるに違いない。

伸ばされきった筋肉がぎちぎちと音を立てている気までしてくるのだから穏やかでいられない。

「いたたたたっ」
「もっと良い声が出せるでしょう、なまえ」
「ミーノスさん、ドSイッチ!ていうかその発言若干気持ち悪いですよ!!」
「気に入っていただけたようでなによりです」
「誰が気に入ったなんて言いましたか!」

いい加減話してくれと抑え込まれている頭を引くが、びくともしない。あれ、あれれ、なんだか頭も痛くなってきたというか今ミシリってなった気がしたんですけど、どういうことかなあ!まさか頭蓋骨を粉砕してお楽しみあそばれるおつもりですか、ミーノスさん!!!

「やめないか、ミーノス」

が、ふいにぱしりと手が離れあわてて距離を取りながら顔をあげれば、そこには素敵眉毛おにーさんとアイアコスさんが立っていた。うーん、相変わらず怪虫Gのごとく輝く…げふんげふん、相変わらず黒の綺麗な色をした鎧だ。いや、そんなことより、


「素敵眉毛おにーさん、助けてくださってありがとうございました!あと少しで頭蓋骨粉砕して私の頭がスライムのようになるところでした!!」
「安心しろよ、なまえ。そうなったら、今度は冥界で面倒を見てやるぞ」
「いや、安心できませんよ!それってつまり死んでいるじゃないですか!!」
「そうですよ、なまえ。せっかく冥界に私自ら連れて行ってさしあげようとしたのに、何を嫌がるのですか」
「もう何がとかそういうレベルじゃないですよね、ミーノスさん」

しれっと悪びれた様子もなく答えたミーノスさんにこれはある意味殺人予告じゃないかと苦笑いして、扉に手をかけた。

「シオンさんたちが待っています」
「ああ、待たせて悪かったな」
「いえ!…えっと、パンドラちゃんはどうしました?」

確か今日聖域に訪問する予定だったのではと言えば、「所用で来ることができなくなった」と素敵眉毛おにーさんが答えた。それに了解を伝え、教皇の間の扉を開き彼らを招き入れる。

そうしてシオンさんと彼らが謁見している間、私は教皇の間の隅で待機する。その間は特にすることもないのでぼんやりと黄金聖闘士の皆さんと冥闘士の皆さんを眺める。うーん、鎧がキラキラしていて綺麗だ。

「なまえ」
(違う種類のキラキラだけど、どっちも好き。聖衣と、えーと、サ、サー、…サプリメント?)

「なまえ」
サプリメントか、なんか健康に良さそうな名前だなと考えて、やっぱりそんなはずはないと思ったがこれ以上考えても思い出せそうにないので諦めた。

「なまえ!!」
「うわあっ!な、なんですか、別に私は健康志向じゃないですよ、アイオロスさん!!」
「誰もそんなことは言っていないぞ」

少し呆れたような顔をしたアイオロスさんがそう言う。彼の後ろからサガさんも歩いてきて笑った。どうやら謁見は終わったらしい。向こうのほうで皆さんが騒ぎ始めている。

「健康なのは良いことだ」
「まあ、それはそうですけど」
「なまえはもっと栄養を取るべきだ。食事の量が少ないからこんなに小さいのではないか」
「いやとっくに成長期終わっているので、今更栄養とっても背は伸びませんよ、サガさん」

わっしわっしと頭を撫でられ、確かに小さいと何度も繰り返したアイオロスさんにもう放っておいてくれと訴える。好きでこの身長になったのではない!気が付いたら成長がストップし、年1oという成長率になってしまったのだ。思うに、学生時代に思いつきでやったダイエット、あれがいけなかったんだな。というか、もう何故ダイエットをしようとしたのかさえ思い出せないのだが、いったい何故あんなことをしたのだろうか…。あれさえなければ、今頃私は高身長のナイスバディなお姉さんになれていたかもしれないのに!「いや、それはないだろうな」「ああ、それはない」「私の思考を読むのは止めていただけませんか」

私の言葉に分かりやすすぎるのがいけないと笑ったアイオロスさんに唇をとがらせてみれば、サガさんが苦笑した。まあ確かに昔からわかりやすいとよく言われてきたし、これも身長と同じく今更どうこうできる問題でもないのだろう、と思った瞬間デスマスクさんまでやってきて口を開いた。

「お前はナイスボディなんてたまじゃないだろうが」
「デスマスクさん、そんなこと言ったって私のHPが削れるだけですよ!」
「そうだな、動物に例えるとしたら…」
「なんで動物に例えるんですか」


意味が分からないと呟いた私の言葉は彼には届かなかったらしく、しばらく考えるそぶりを見せた後ににやりと笑った。

「頭の悪いチビ猫ってところか」
「どういう意味ですか」

ていうか頭の悪いってなんだ!すごく余計な言葉じゃないか!!あ、でも猫は可愛いから嬉しい、けど…チビと頭の悪いというのは余計な修飾語ではないのかと言う私の叫びは、嬉々としたアイオロスさんの声によってかき消された。

「それなら私が飼うぞ!」
「なんでそうなるんですか!!」
「何を言うか、アイオロス。まったくお前と言うやつは…」

私と同時にそう言ったサガさんが天使に見えた。だが、もっと言ってくれと言おうとした私の言葉は喉の奥でギャラクシアン・エクスプロージョンにより粉砕されそのままブラックホールに飲み込まれたかのごとく、二度と出てくることはなかった。

「がさつなお前には無理だ。なまえの面倒は私に任せておけ」
「サガさん、落ち着いて考え直して下さい」

貴方まで何を言い出すのかと言う言葉は、もはや誰も聞いてはくれない。

「随分と楽しそうな話ですねえ、私も混ぜて頂けますか」
「なんの話だ?」

わらわらと集まってきたミーノスさんやミロさんに引き続いてぞろぞろとこちらに歩み寄ってきた皆さんに実に楽しそうな笑みを浮かべたデスマスクさんが事情を説明する。なんだろう、この人はものすごく楽しんでいる気がする。私で遊ぶのは止めてくれ!!

だが私の願いは空しく、話を聞き終わってしまった皆さんが一斉にこちらを見る。みんなムキムキで背も高いため、威圧感ムンムンで少し怖い。

「なまえ」
「な…、なんでしょう」
「うちに来い」
「…善処します」

そうして一瞬の沈黙の後、ここは何か危険な気がして方向転換して走り出す。背後で聞こえた「追え」だとか「捕まえろ」だとか、まるで追跡者が逃亡者を追う時のような台詞が妙に恐ろしく聞こえて教皇の間を飛び出した。私は何も悪いことをした覚えはないのに、なんでこんな目にあっているんだ?

「こ、来ないでくださいよ!!」

ばたばたという明らかに追ってきている足音がこんなにも恐怖を煽るものだと知らなかった。とりあえず、あれだ。部屋に逃げ帰って鍵をかけてクローゼットの中にでも隠れていよう。みんなが忘れるころまで永遠と隠れていよう。

が、教皇の間を飛び出してしばらく行ったところの角で、沙織ちゃんにぶつかった。目を丸くして何事かと驚いている彼女にあわてて謝罪を告げて手短に事情を説明する。背後から響く大勢の足音が怖い!!


「…なまえさんが、猫?」
「ということだから、ごめんね、沙織ちゃん!もう行くね!!」
「猫、なまえさん、猫」


ぶつぶつと呟きだした、沙織ちゃんに、私の中で警報がなる。聖域で一年近く過ごしているから経験で分かる。これは大変よろしくない反応だ。よし、逃げようとタイミングを計りながらじりじりと後ずさった私の手を、彼女ががっしりと掴み目を輝かせて私の顔を見た。

「私が飼います!!!!」
「やっぱり!!ていうかなんでそうなったの!!」

説明してほしいよと叫んだ瞬間、声に気付いたのか足音が一斉にこちらに向かい申し訳ないが沙織ちゃんの手を振り切る。そうして何故逃げるのだと叫ぶ沙織ちゃんになぜ理解できないのかと叫び返して私は再び聖域を走り回ることになったのだ。


頬を撫ぜる穏やかな風も、今はなんの励ましにもならなかった。
(とりあえず、ちょっと平穏な日常を望みたいのですが。)

top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -