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現パロ


 「おい、落ちるぞ」

 両手をぴんと横に伸ばしてバランスを取りながら、ひょえーっと間抜けな叫び声をあげて、海沿いのコンクリートの壁の上を歩く同級生の背中に呟く。だがなまえはまるでそんな言葉など聞こえていないのか、とうとうスキップまでし始めた。足を滑らせて向こう側の海に落ちたって知らねえからな。もう一度そう呼びかけて、ゆっくりとその後を追う。

 「ミカサとアルミンまだかな、アイスまだかな」
 「人に買い出し頼んで遊んでるなよ」
 「だってついでに買ってきてくれるって言うから」

 ダッツかな、ガリガリ君かな。随分と値段の違うものを比較しながらあいつは俺を振り返った。くそ、また足元が疎かで見ていてはらはらする。いつかも、こいつはそうして随分と高いところから落ちたことがあった気がする。大事にはならなかったし、こいつは「ビビッて漏れるかと思った」とか女のセリフとは思えない言葉を吐いて、楽しそうに大笑いをしていたが、あれには肝が冷えた。あれはいつのことだっただろう。思い出せない。いや、よく考えたら俺たちはそんな高いところに行ったことはないし、サーカス団でもない一般人のこいつが落ちて助かるわけが無い。(夢か)


 「海綺麗だね、楽しいね。嬉しいよ、わたしずっとみんなと海に来たかったんだ!」
 「おい、本当いい加減にしないと落ちるぞ」

 突風が吹いて、なまえの顔面には長い黒髪が張り付いていた。そのためあいつは目をぎゅっと閉じてそのままふらふらと歩くから、気がかりで仕方がない。「じゃあエレン、手をつないでいてよ、落っこちないようにね」、そう言って伸ばされた小さくて白い手を仕方なく取ってやる。こいつが海に落ちてびしょ濡れになったときアルミンに俺も一緒に怒られる気がするから、仕方がなくだ。

 「うふふふふありがと、エレン」
 「気持ち悪い笑い方するなよ」
 「うふふ、うふふふ、海綺麗だねえ」

 相変わらずこいつは人の話を聞いちゃいない。

 「ねえ、エレン」

 ねえ

 「エレン」

 コンクリートの上に立つあいつを見上げる。些か傾いて紅を帯びた太陽光をいっぱいに浴びて、あいつは俺を見ていた。笑って、見ていた。そしてまた目を閉じる。そのままあいつは下手くそな校歌を歌いながら歩き出した。もうこいつの破天荒っぷりには何を言っても無駄な気がすると半ば諦めを込めてなまえを見上げていると、あいつの能天気が移ったのだろうか、なんだか笑えてきた。ああ、あほみたいに平和ボケした世界。

 「いつか海に行こうね、一緒によ、約束よ」

 夕焼けの中、いつかそう言って口元を綻ばせたあいつの顔が、頭をよぎった気がした。

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