忙しいひとだと分かっているから、なるべく我慢する。
自他ともに厳しいひとだから、甘ったれない。
ちょっかいをださない。
余計な仕事を増やさない。
会話ゼロなんて日もある。
だから、バレンタインだからといって何か特別なことなんて何も期待していないのだ。
「あなた、それで恋仲にあると言えるんですか」とか、「満足ですか」と心配したムウが声をかけてくれるけど何も問題ないのだ。わたしは大人だからね、えへん! 調子に乗って胸をはると、「師からしたら誰もが赤ん坊のようなものでしょう」と冷静に返された。200歳を越えると、そうなのか? シオンからみると老師以外皆赤ん坊みたいなものなのか? わたしも? でもちょっとまて、それが本当だと困る。シオンはペドじゃない。
「別にいちゃいちゃしたいんじゃないもん! 好きだからわたしは構わないけど、シオンはジジイだからしょうがないの! 腰が痛くて動かないの! 若者みたいに騒がないだけなの! おじいちゃんだからね!」
「誰がジジイだ」
ひいいいいつからそこに教皇様!
そしてムウはいつの間に逃げたんだ、見当たらないじゃないか!
わたしだけ置いて逃げるなんてひどいというか逃げるの早!
「なまえ、だれがジジイだと?」
「いやだれのことだろう、分からないや。本当、見た目だけは青年なのにとか思ってないから大丈夫だよ」
誤魔化そうとして余計なことまで言ったからか、溜め息をつかれた。これから説教タイムだろうか。シオン、怒ると恐いんだよなあとしょんぼりすると、二回目の溜め息。そんなに呆れられるようなことをしたかとシオンを見上げると、彼は笑っていた。
「お前のためにと過ぎた行為を慎んでいるのが分からないか」
ジジイはどうやらだてに年齢を重ねていないらしい。
目を丸くした直後には唇に噛みつかれた。しかも離れた途端に悩殺スマイルをかまされて再起不能にされたせいで、疑問の声すらあげることがかなわなかったくらいには。
(唇を殺してみせる/背骨様)
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