ありえない、額のど真ん中にニキビができた。お前もようやく神との対話を始めたかとシャカには意味の分からないことを言われ、デスマスクにはインド人かよと笑われた。たぶん試しに作ったチョコの食べ過ぎのせいだと思う。頭に来たのでチョコ断ちすることにしてカレンダーの14日をバッテンで消してやった。外の慣習を聖域の中に持ち込む必要も理由もないのでこれで良いだろう。外がどれだけ恋人たちのいちゃいちゃパラダイスだろうと、聖域には一切関係ないことなのである。そもそもあのお堅くて13年間も引きこもりをしていたサガがバレンタインデーなんてものを知っている確証もないし。
だというのに、当日サガは何故か花束を準備して会いに来た。腕の中いっぱいの赤い薔薇。アフロディーテにでも貰ったのだろうか、普通の男がそんなものを持っていたらドラマや映画の見すぎだと失笑物なのだが、悔しいことにサガにはよく似合う。薔薇の妖精か、このやろー。
「なまえが喜ぶと良いと思ったのだが」
迷惑なら断ってくれても構わないと困ったように笑うサガから薔薇を受け取る。迷惑なわけがない。というより、わざわざ外のイベントを持ち込んでくれたサガには感謝の言葉しか出てこないし、ニキビ一つでチョコを放棄した自分が情けない。
「ごめん、チョコを準備していないの」
「チョコ?」
「日本のバレンタインのプレゼント」
「いや、気持ちだけで十分だ」
「でも貰ってばかりじゃ悪いし、今晩チョコレート風呂でもやる?」
それで一緒に入る? なんて、馬鹿みたいな提案。
だけどサガは目をぱちくりとさせた後に焦ったように「年頃の女性が滅多な事をいうものではない」とか「気持ちだけで十分だ」と繰り返した。気持ちだけで十分ってどういうことだ、嫌なのか良いのかいまいち分からないではないか。
「でも、そうだね。双児宮のお風呂をチョコまみれにしたらカノンも怒りそうだし止めておくよ」
「目に浮かぶな」
「そのかわり、今晩は一緒に過ごそうか」
貴方のことだけを想って過ごすからさ。そう言えば柔らかく微笑んだサガに、額のにきびなんてどうでもよくなって、やっぱりチョコを準備しておけば良かったとちょっとだけ後悔。
「そうだ、来年は等身大サガモデルのチョコを準備するからね」
「ははは」
(オシャレじゃない/背骨様)
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