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 バレンタインデーだよエレン、バレンタインデー。たまにはあまーいことでもしていいんじゃないかと勘違いさせるべく企業や商店が人々を本気で騙しにかかる季節だよエレン。とりあえず壁紙はピンクにしてハートの商品でも出しとけばいいだろ的な風潮のイベントだよエレン。でもいつも大して何もしてあげられないから、こんな日くらいならエレンが喜ぶようなことをしてあげたいなって思ったんだけど、悩んでいたら当日がきてしまったんだよ、エレン。

 「何かしてほしいことない? なんでもしてあげるよ!」
 「別に……」
 「遠慮しないでお姉さんに言ってごらん!」
 「お姉さんって歳じゃねえだろ、なまえ」
 「そこはほら、気分的な問題だよ」

 そんな会話をしながらもエレンの元気がないように感じられるのは、もしかしてわたしがチョコレートを準備していなかったからか。チョコなんかでエレンが喜ぶとは思わなかったので、初めからアウトオブ眼中だったのだが、やっぱりエレンもチョコが欲しかったのか。チョコレート会社の陰謀に上手く乗せられちゃうのはやっぱり男の子だからかな。

 「エレンー、チョコ買ってこようか? それとも作る?」
 「物が欲しいわけじゃねえよ、気にするなって」

 そのわりにぼんやりしているではないかとエレンの視線を追う。そしてその先で熱烈なキッスを交わすカップルを発見した。

 「熱いねー、寒いけど熱いねー」

 公園の噴水に腰かけながらつぶやく。はいた息は真っ白だ。だけどあのお二人はとっても熱い。ちらりとエレンを見ると、こちらを見ていた彼と目があったがすぐに逸らされた。何故か耳まで赤くなっていて、指摘をすると「見るなよ!」と怒鳴られる。なんで照れているんだ、この人は。


 「……ねえ、もしかしてエレンもちゅーしたい?」
 「はっ!? そ、そんなわけないだろ!!」
 「どもってますよ、エレン君」

 まったく、なんて素直じゃないくせにわかりやすい人なんだろう。
 ここはわたしが一肌脱いであげようじゃないかと、肩に手をおけばびくりと震えたエレンの頭に手を回して頬にキスをひとつ。瞼をふるりとさせたエレンが勢いよくこちらを向いた瞬間口にもキスをひとつ。


 「は、や、やめろ、よっ!」

 ぐいとわたしの肩を押して俯いたエレンの耳はさっきよりさらに真っ赤だ。ちょっと可哀相かなとも思うけど、そんなすてきなところを見せられたらトキメキが止まらなくなってしまうではないか。うん、わたしは悪くないよねと頷いて笑う。


 やめてなんかあげないよ
 エレンが可愛すぎるから

 ちょっと自己中かもしれない。だけどそれに対して、怒るどころか期待するように上目使いでこちらを見てくるエレンにも原因はあるんだって、やっぱりわたしは思うのだ。

 (世界はもうすぐこっぱみじん/背骨様)

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