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 またあの夢を見た。


 目を開いて、最初に飛び込んできた小奇麗な天井に目を閉じる。瞼の上に手の甲を当てて考えた。どちらが現実なのか。そう問われると上手く答える自信がない。過去にはあちら、今はこちらというのが恐らく正答なのだろう。背中に感じる、清潔なシーツと幾分柔らかいなまえの好みの寝台は、あの世界には存在しなかったものなのだから。

 ゆっくりと手を外して起き上がる。
 窓から差し込む明るい朝日。その向こうには見慣れているのに、見慣れない景色が続いていた。ここは、壁の中ではない。今の俺は調査兵団ではない。隣を見る。なまえはいない。

 「……きもちわりい」

 人の死に様か、あいつの死体か、平穏すぎるこの世界か。そんなものは分からなかったし、分かりたくもなかった。ただ苛々する気持ちを抑えてベッドから降りたところで、なまえが寝室の扉を開けた。目が合うと、あいつは手に持っていたものを掲げてみせる。

 「リヴァイ、今ハンジが来ていてね、映画借りたんだよ!」
 「ほう……。スプラッタじゃないだろうな」
 「違うよ、ハンジをなんだと思ってるの! とりあえずこのDVDは朝ごはんを食べたら一緒に見よう!」
 「好きにしろ。ただしその前に靴下を履け」

 裸足で歩きまわって体を冷やして風邪を引いたらどうすると言うと、なまえは笑いながら飛び掛かってきた。そのまま「リヴァイとくっついていれば温かいから良いんだ」と滅茶苦茶な言葉を吐いたなまえの頭に靴下を投げつけた。


 『僕が君のことを好きだとして、それで、それだけで、どこまでいけるっていうんですか』


 食後にソファに二人で座って映画を見る。恋愛映画。よくもまあハンジがこんなものをチョイスしたと考えながら、画面の中の女々しい金髪男が言った言葉を聞いた。そんなことを女に聞くな。自分の頭で考えて結論を導き出せ。下らない。そう思いながらも席を離れることができないのは、隣でなまえがはらはらと涙を流しながら映画を見ているせいだ。一体この話のどこに泣ける要素があったんだ。分からねえ。

 ふと目が合うと、なまえは泣いたままのぐしゃぐしゃの顔で笑う。
 そして、言った。

 「もしもね、いつか生まれ変わっても、全然違う顔になって違う性別になっていてもね、わたしはリヴァイのことなら見つけられるって思うよ。だって会いたいって思うから。きっといつだって一番に、最後までずっと会いたいって思うのは、リヴァイだけだから。だから、きっとまた会えるって、何度でも会えるってわたしは信じているからね。だから生まれ変わって、世界の果てにいても絶対絶対会いに行くからね!」
 「そうかよ、せいぜい頑張ってくれ」

 一番最後までずっと会いたい。

 ああ、お前は本当にそう思ってくれていたのか。だからここまで来ることが出来たのか。えへんと胸を張るなまえを横目に、口元に手を当てた。過去に起きたことが、変えられるとは思わない。後悔がないわけではない。だけど、あれは変えてはいけないものだった。だから、俺はあの場所のことを背負っていかなければならない。自ら通ってきた道のために。

 「でも、リヴァイが見つけてくれるって気もするんだよな〜」

 まだその話を続けていたなまえが言った言葉に画面に視線を戻した。抱き合う男女。

 「ああ……そうかもしれねえな」

 きっとだよ。
 そう言って笑ったなまえの頭に手を置いた。
 いつの間にか、不愉快な気持ちは無くなっている。そのため、もうそれについて考えることは止めにして、ただ黙って目を伏せ、エンディングを聞いた。


 ぼくがきみをすきだったとして、それで、それだけで、どこまでいけるというのか。その質問の答えは、どうやら「どこまでも」らしい。あいつの腑抜けた面を見ていると、なんだかこちらまでそんな気分になってくるのだからおかしな話だ。だがそれで良い。それが良かった。


 「リヴァイ、大好き」


 この場所には悪くない、こともあるのだから。

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