今日もなまえは調子が悪いらしい。最悪の顔色に加えて咳が止まらない。ぼろ布にくるまったやつは、小さく丸まって震えていた。その上に一枚俺の服を投げ捨てたが、それで暖かくなるとはやはり到底思えないまま。
「おい」
「…………」
「おい、なまえ」
「……あ、なに、リヴァイ?」
虚ろな目でこちらを見たなまえに、少し出てくると告げる。あいつはへらりと笑っていってらっしゃいとだけ言った。今日は仕事に出るのは止めるらしい。だが俺の方はそうも言っていられないのでそのまま部屋を出る。薄暗く、汚い街の中に気分はいつもより悪くなった。今朝がた見た妙な夢のせいだ。見上げた暗い空に唾でも吐いてやりたい気分になるが、そんなことをしてもどうにもならないために止める。
花畑の中のあいつは、幸せそうに笑っていた。
見た事も無い綺麗な服を着て、良い顔色をして、笑っていた。そんなものは終ぞ見たことが無いし、この先も変わらないだろう。壁の外にも中にも、あいつがあんなふうに幸せになれる場所などないのだから。地下街から出てきた病持ちなど、どこに行ったって歓迎されやしない。あいつはこれからもここでひっそり生きていく。これが、どうしようもない現実だった。
ああくそ、やはり妙な夢を見たせいで気分が悪い。
幸せそうに笑うなまえの隣で、幸せそうな自分がいるなど。
(天は手に入らないものばかりを直前までぶら下げてみせるものである)
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