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 明日は結婚式なのですから今日は早くお二人で部屋に戻りなさいな、さあさあさあ!
 そう言って私達を部屋に押し込んだ沙織ちゃんの顔は鬼気迫るものがあり、正直ちょっと怖かった。一体何を考えているのだか知らないが、大きなサガさんまでぐいぐいと部屋に引き入れたあと、彼女はさっさと扉を閉めて行ってしまった。残された私達は顔を見合わせて苦笑をするばかり。なんだかんだいって、今日の沙織ちゃんはずっと頬が緩んでいたし機嫌が良かった。ということは、彼女も喜んでいてくれるのだろうか。そう考えるとこちらまで今よりずっと嬉しくなってしまって、締まりのない顔になってしまう。そうして笑っているとサガさんがふと尋ねてきた。


 「なまえ、紅茶でも飲まないか」
 「あ、はい。お願いします」

 椅子に座って、皆がくれた手紙や贈り物の整理をしているとすぐにカップを手にサガさんが隣にやってきた。お礼を言って受け取ってからそっと口をつける。ふわりと紅茶の香りが広がった。

 「美味しいです」
 「それは良かった」
 「ふふ」
 「……ところでなまえ、違和感があるのか?」
 「え?」
 「指をずっと気にしている」

 サガさんの指した指を見ると、そこには最近嵌められたばかりの指輪。橙色のランプに照らされて温かな反射を見せる銀のそれをわたしは無意識にずっと指先で弄っていたらしい。やっぱりサガさんはよく見ているなあと考えながら笑う。

 「違和感じゃなくて、嬉しいんです。嬉しくて、嬉しくて、忘れていると思ってもやっぱり気になっているみたいですね」
 「そうか」

 サガさんの指にも同じもの。彼が選んでくれたもの。目に見えなくても良いと思っていても、こうして形になるとやっぱり嬉しい物なのだなとひとつ学んだ。ゆるゆるゆる。また緩んできた頬に両手を添えて慌てて引っ張った。引き締まれ、きりっとした顔になれ、私! もとからそんなクールな顔をしているわけないので、今更無駄な努力かもしれないが、これ以上情けのない顔をサガさんに見られて堪るかと頬を引っ張るとサガさんが笑って私の手を止めた。

 「また何かおかしなことを考えたのか? 止めなさい、腫れてしまう」
 「引き締めようと思って……」
 「そんなことをしなくても、なまえはなまえだろう?」

 私は好きだ。
 その言葉に悩殺されそうになる。やっぱりサガさんの言葉は破壊力抜群だ。さすがぎゃらくしあんえくすぷろーじょんの使い手だ。

 「サガさんのイケメン……ッ!」

 そんなことを言われるとまた惚れてしまうではないかと心の中で叫びながら両手で顔を覆った。サガさんのキラキラオーラから目を死守せよ! それが今一番の任務である。だけど姿が見えないと今度は寂しくなってくる私はもう本当に末期だ。

 こてんと隣のサガさんに頭を預けてみる。
 温かくて、優しい手が頭に添えられた。見えなくても、彼が今とても優しい顔をしていることが簡単に予想できたので、ぶわっと好きだという気持ちが溢れてくる。困る。本当に困る。サガさんが好きすぎて生きるのがつらい。


 「ずっと一緒にいたいです」

 だから無理だと分かっていても、そんなことを祈ってしまう。馬鹿だと笑われても良かったのだが、サガさんはそうしない。頭を大きな手が撫でていって、額に優しいキスがひとつ落ちてきた。


 貴方がそうやって優しいからもっともっとと望んでしまうのだ。泣きたいくらい、幸せになってしまう。好きで、好きで、どうかこの瞬間よ終わらないでと願ってやまない。

 そして彼の優しい手が、頬を滑ってそっと頭を抱き寄せられた。愛しているという言葉は、私とサガさん、どちらのものだったのだろう。お互いのものだったら良い。そう考えて私は満ち足りた気持ちに抱かれながら、そっと目を閉じてサガさんの背中に腕を伸ばすのだった。


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リクエストありがとうございました。
Arcadia/どてかぼちゃ

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