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それはもう、大きな大きな悲鳴だったのだと思う。聖域中に響いたのではないかと思うほどに大きな悲鳴を上げてばたばたと手で顔をはらう。顔についていたそれを無理やり払いのけてそのまま駆けだす。視界が歪んで、頬を暖かな何かが流れて行った。じわりと視界の水分が増して、鼻がつんとした。

「うっ、うぇ」
「なまえ!」

その場から駆けだした瞬間、木の根に躓いて転びそうになる。ああ今日はきっと厄日に違いない。どうしてこんな目に会わなければならないんだろう!近づく大地とこんにちはをする準備をした瞬間、力強い手に受け止められた。頭上からかかる少し、低い声は

「い、一輝…!!」
「悲鳴が聞こえ…、…なまえ?何故泣いている」
「ごっ、ごめんなさ…!でも、あの、顔に蜘蛛が!!おっきい蜘蛛が!びたーんって来たの!!!」
「蜘蛛だと?」

うわあああ思い出したらまた涙が出てきた。早く部屋に戻って顔を洗いたいよ、蜘蛛の糸が顔についている気がするよ、気持ち悪い、ああ気持ち悪い!ぱたりと涙が落ちる。一輝が目を丸くしたのが見えた

ああ、情けない、なあ
呆れられたかも、たかが蜘蛛で泣くなって
でも本当に蜘蛛だけは苦手で駄目なんだ!うう、思い出しただけでじわりじわりとくるほどには、



「なまえ」


ぐい、と大きくて荒れた手で目もとを拭われた。あ、お日様の匂い

「泣くな」

ぐいぐい、少し乱暴だけど傷がつかないように優しく涙を拭ってくれる。驚いて目を開ければ木漏れ日の下で仏頂面で私の涙を拭う一輝が見えた。それがなんだかとても面白く感じて涙が引っ込み、ふふと笑みを漏らせば一輝が訝しげに目を細めて私を見た。不思議だね、蜘蛛が嫌で仕方がなかったのに、一輝が涙を拭いてくれたからもう大丈夫な気がするよ、なんて


「一輝、」
「なんだ」
「ありがとう」

えへへ、と笑いながら言えば、彼の目が大きくまん丸に開かれた



ある午後のこと
(って、きゃあああ!!一輝!あの木!!蜘蛛が、蜘蛛!い、いやあああ!)
(………はあ)

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