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 「ん」

 そんな声に顔をあげると、リヴァイがわたしに向かって何かを突き出しているところだった。見れば彼の手の中には小さな花束。差し出すリヴァイは非常に不本意だとでも言いたげな引き攣った表情と超絶顰められた眉。だけどこの顔は、ああ、不本意なわけではなく恥ずかしいんだなと悟って小首を傾げる。意識はただ目の前に花束に向いていた。

 「どうしたの、これ?」
 「お前にやろう」
 「……今日何かの記念日だったっけ?」
 「……記念日でもなけりゃてめーの女に贈り物もできないのか」


 相当恥ずかしいのだろう。さっさと受け取れとばかりに頬にぐいぐいと花を押し付けてくるリヴァイの手を包んでそっと花を受け取る。綺麗な二種類の花。一体どうしたのだと尋ねると、帰り道に見つけた花屋で売っていたのだとリヴァイは答えた。

 「好きだろう、花が」
 「うん! ありがとう、リヴァイ」
 「……ふん」
 「嬉しい」

 わたしの言葉にリヴァイは腕を組んでそっぽを向いた。だけど眉間の皺がいつもより四割減だ。これは上機嫌だ、珍しいこともあるらしい。

 「活けてテーブルに飾ろうか」
 「好きにしろ」
 「ああ〜でもせっかくリヴァイがくれたから押し花にして残したいかも……! ねえ、どっちが良いと思う?」
 「好きにしろ」

 二度同じ言葉を繰り返したリヴァイに、うんうんと悩む。彼はわたしの前に座ってコーヒーを一口。急ぐ事でもない。黙ってわたしの答えが出るのを待っていてくれた。

 「あー選べないよ」
 「せいぜい悩め、時間はたっぷりある」
 「でもそれだけあるなら有意義に使いたい!」
 「何がしたいんだ」
 「……なにしよう?」
 「……お前が言いだしたことだ。自分で決めろ」

 呆れたような目をしてコーヒーを一気に飲みこんだリヴァイが立ち上がる。カップを洗いにいくらしい。振り返って椅子の背もたれに両手をかけながらリヴァイの背中を見送る。その後もうんうんと悩み続けて、結局わたしの貧相な頭で出した結論は非常に精一杯のものだった。
 リヴァイは戻って来るなり、ハンカチで手を吹きながら「答えは出たのか」とわたしに尋ねてくれる。だからわたしは少し照れながら自分なりの結論を、この大切な人に述べるべく口を開く。


 「とりあえず、リヴァイと一緒にいたい、かな!」

 驚いたのか、リヴァイは目を僅かに見開いた。暫くの沈黙がリビングに満ちる。しかしすぐにリヴァイは「そうかよ」と言ってソファに移動した。その姿を目で追っていると、ちらりとこちらを見たリヴァイがふっと鼻で笑う。

 「……たまには二人でその辺散歩にでも行くか」

 途中にその花を買った花屋もあるし、今の時期は土手に花がたくさん咲いている。「行く!」、そう提案したリヴァイにわたしは飛び上がって、準備をしてくると部屋に駆け込んだ。洋服を選びながら、ふとリビングのリヴァイへと大きな声で聞く。

 「ねえ、これってデートかな?」
 「好きにしろ」

 今日三度目の言葉。これって実はリヴァイなりの照れ隠しなんじゃないかと考えて、新たな一面を見た気がして嬉しくなる。むふふと笑いながら着替えを済ませて、緩んだ頬を隠しもせずにリビングのリヴァイのもとへ向かえば、彼は締まりのない顔だなと頬杖をついた。

 「あ、花はね、一応コップに活けておいたよ。あとで押し花にするつもり。それでしおりにするんだー。やっぱり残しておきたいからさ」
 「悪くない」

 どこか満足気にふんぞり返って言ったリヴァイに、でしょうと応えて笑う。


 「準備が出来たなら行くぞ」
 「はーい、行ってきます!」

 立ち上がって玄関に向かうリヴァイのあとを追って、一時留守にする家に大きな声で挨拶をする。リヴァイはそんなわたしを放って靴を履いていた。わたしも靴を履いて家を出る。リヴァイが玄関をしっかり施錠した後に二人、並んで散歩を始めた。リヴァイの言うとおり、この時期はあちこちに花が溢れていた。きれいだねえなんて言って笑うと、リヴァイもああと答えてくれる。いつの間にか、手はしっかりと繋がれていた。


 「楽しかったー! リヴァイとお散歩するの好きだよ、わたし」
 「そうかよ」
 「ありがとね、リヴァイ」
 「構わん」

 そんな会話をしながら二時間ほどして部屋に戻ると、テーブルの上にはコップに活けられた可愛い花。大好きな人がくれた大切な花。それを見ているだけで幸せな気持ちがいっぱいに溢れてくる。その中には少しだけ不思議な郷愁のような感情。リヴァイと一緒にいるとたまに感じる不思議な感覚。


 ああ、どうしてだろう。
 いつかの遠い昔も、あなたはこうしてわたしに花をくれたことがあった。そんな気がするわ。それを伝えると、リヴァイは肯定をするでも否定をするでもなく、黙ってわたしの頭に手を置いた。

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 花言葉
 アルペンブルー「互いに忘れない様に」、ローズマリー「変わらぬ愛情と思い出」

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リクエストありがとうございました。
Arcadia/どてかぼちゃ

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