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絶望の中にいると思っていた。逆賊の弟の烙印を押されたあの日から、まるで暗闇に落ちたような感覚に陥っていた。その中でなまえは手を差し伸べてくれた。彼女は同情や憐憫で接しているわけではないと知ったとき、恋心が芽生えていた。





なまえはオレの女官として働いている。聖闘士候補生として兄さんと共に修行に励んでいたが、兄さんが聖域を去ってからは、女官としてここにいる。オレよりも年上のなまえはまるで姉のように甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。きっと兄さんがいなくなったオレに対して思うところがあるのだろう。
世話をしてくれる事はありがたいと思うが、弟同然に扱われることが不満だった。なまえはオレを異性として全く意識していない。それが悲しかった。オレを男性として見て欲しい。弟のような存在ではなく、なまえにとってかけがえのない存在になりたい。そんな思いが膨れるばかりだ。


「ただいま、なまえ」
「アイオリア…おかえりなさい」


穏やかな微笑に少しの安堵を覚えた。厳しい任務から帰還してなまえの顔を見ると、本当に帰ってきたのだと思うことができる。
右腕の深い傷を見たなまえは小さな悲鳴をあげて救急箱を取りに行った。そういえば聖域に着いてすぐに獅子宮に戻ってきたのを思い出す。確かにこの怪我だと悲鳴を上げるのも当然だ。
救急箱を持ったなまえに促されて椅子に座ると、彼女は青白い顔をしながらも手当に取り掛かってくれた。


「アテナの為とはいえ怪我をしているアイオリアを見るのは辛いわ」
「すまない。オレが不甲斐ないからだな」
「そうじゃないけど…やっぱり大事な人が傷ついている姿は見たくないの」


大事な人という言葉に思わず胸が踊った。だが瞬時にその心は冷める。何度もなまえの口から“弟のような存在”と言われてきたのだ。だが、もうこれ以上その立場に甘んじるつもりもなかった。


「…いつまでたっても弟か?」
「アイオリア…?」
「オレは一度だってなまえを姉として見たことなどない」


艶やかな髪を少し手に取り、そっと口付けた。顔を上げると耳まで赤く染まったなまえと目があった。嗚呼、その顔は反則だ。

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