ざあざあ、風に木がゆられて音をたてる
開け放された窓から入り込むその音が、何故かたまらなく心地よかった
「夏が終わるのよ」
「秋が来るな」
ソファにごろりと転がって、私の膝の上に頭を寝かせたなまえの黒い目が私を見て、そうして彼女はふわりと微笑んだ。それに笑みを返して髪の毛を梳いてやればほにゃりと表情を緩ませる。ああ、まったく可愛い娘だ
「今年の夏は色々やったねー」
「ああ、なまえにバケツの水をぶちまけられた」
「ちょ、あれはごめんって言ったじゃない!わざとじゃなかったのよ、暑いから水をまこうとしたら突然サガが出てくるんだもの!まだ怒っているの?」
「まさか。ただの冗談だ、なまえ」
「サガの冗談は分かりにくいわ」
「よく言われる」
さらさらさらり、彼女の髪を梳く
ざあざあ、外の木々が揺れる
ふと覗いた美しい月夜に目を細めれば、それに気がついたなまえもふわりと笑った
「今度お月見しようね」
「ああ…、日本の行事だっただろうか」
「うん、夏も行事がいっぱいだったけれど、秋もいっぱいあるからまた一緒にしようね」
「ああ、楽しみにしておこう」
そう笑って言えば、なまえもさらに笑みを深くして笑った
「サガ」
突然彼女が起き上がる
「秋も冬も、それから来る春と、また来年の夏もずっと一緒にいてね!」
その言葉が終わってすぐに、ちゅ、と小さな音
「…!」
「えへへ」
ぎゅう、と首に抱きついたなまえの背中に手を回す。
「…まったく、敵わないな」
困ったふうに呟いた
抱きついたままのなまえがふふふと笑う
きっと彼女は気付いている
そんなことを言っておきながらも、頬がだらしなく緩んでいることを
けれどその表情を見ていたのは、月と風に揺られる木々だけだった
ざあざあ、少し風の強い秋の夜
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