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「なまえはあの通り内向的な女性だが気配りがうまいし、隣にいて安心する落ち着きを持っている。愛らしいひとだし、いつまでも離したくないと思うこともある。しかし不埒な気持ちなど抱いていない。彼女はそのような対象にすべきでない。何故だろうか、なまえを前にするといつも他の女性とは違う気持ちが湧き上がってくる。力ない彼女のことを守りたいと思っている。なまえが笑顔でいてくれるのならわたしもまた幸せになれるのだろう。そういえばなまえと二人で海に行ったのだが、もちろんこの季節だ、寒いために風邪を引かない様に上着を貸したわたしに見せてくれた彼女の笑みの愛らしさを言葉で表現することなどできない。氷河とアイザックにも良くしてくれるし、動植物にも優しい彼女はまるで天使を絵に描いたようなひとだ。そこまで考えてわたしはふと気が付いたのだが、なまえはもしかしたら本当に地上へ愛と光を届けるために正体を隠して舞い降りた天使なのかもしれない」

「……疲れているのなら、いつでもおれは相談に乗るぞとしか言いようがないな、カミュ」


珍しくも風邪をひいてしまい高熱と頭痛と戦っている最中に枕元に立ったカミュ。
彼は手の中の大量の氷と林檎を見舞いの品だと前置きして机に置いてから元気の出る話題として上記の台詞を口にした。

頭痛のするような話題を真剣さを感じる真顔で一方的に語り続けたカミュが帰ったのは、彼が天喝宮を訪れてから一時間後だった。一体何をしに来たのか不思議なくらいなまえの話しかしなかった。それも大真面目で彼女は天使なのかもしれないときたものだ。

もしかしたら彼なりのジョークだったのかもしれないが、カミュは冗談など言う男ではない。

つまりは本気だったのだろうと推測して肌寒くなった。
南欧ギリシャにいるはずなのに自分の周囲にだけロシアの冬将軍がやってきたのではないかと思えるほどの寒気の正体は風邪のせいだけではなかったはずだ。さらに風邪を引いたのもきっとおれだけではなくカミュもまた同じことだったのかもしれないと考えた。


そうだ、きっとそうだ。


おれは熱に浮かされてただなまえと海に行って来たと感想を述べたカミュの言葉を聞き違えたのだ。そういうことにしておこう。そしてそれならば早く寝て風邪など治してしまおうとカミュの帰宅後に再び睡眠に入って一時間後、なまえがやってきた。

カミュと同じく見舞いの品だと前置きをして大量の氷と林檎を机の上に置いた彼女が「早く風邪が治ると良いですね」と言って微笑む。確かに天使ではないかもしれないが、カミュの言うとおり優しく魅力的な女であることに間違いはないらしい。カミュも良い相手を見つけたではないかと咳込みながらも考える。そんなおれに彼女は続けた。


「この林檎、カミュと海の帰りに市場へ行った時に買ったんです」

「そうか……」


だからカミュも林檎を持ってきたのだなと密かに納得して寝台の中で頷いたおれを彼女が見る。


「一日一緒に過ごさせて頂いて思ったのですが、カミュは本当にすてきな人ですね。彼と幼馴染なんてミロが羨ましい限りです」


嫌な予感が胸を過る。


「でも良いんです。あんなにすてきな人が地球にいたなんて、そして出会うことができたなんて夢のようでそれだけでわたしは十分に幸せですから。彼は子どもにも優しいですし、時々見せてくれる笑顔なんて百万ドル以上の価値があると思うんです。海に二人で行った時、夕暮れの水平線に沈む太陽の光に照らされてカミュの髪が優しい赤に輝いたのをわたしは忘れられません。まるで絵画の一枚のような美しさでした。もしもあの瞬間を切り取って絵画にしたならば世界遺産になること間違いありません。そしてそんなにも美しいあの人が見た目と同じ……、いえ、それ以上に美しい心を持っているなんて一体誰に信じることが出来るのでしょう! カミュは愛し、愛されるためにこの地上に生まれ来たに違いありません。それにしてもカミュはいつでも紳士的で物腰も柔らか、そして強い正義感を持ったひとですが、そんな人が普通にいるでしょうか? いいえ、いいえ! 彼があんなにすてきなのはきっと絵本のお伽噺の世界から飛び出してきてしまったせいなんです! 彼はきっとさる王国の王子であったに違いありません、ねえミロ、ちゃんと聞いていますか」

「はあはあはあ」

「やだミロ、興奮したんですか、カミュに!? ということはまさか貴方も彼が……! ……っ、い……いくらミロと言えどライバルになるというのならわたしは容赦しません! 恋は戦争ですからね!」


顔を真っ赤にして握り拳を作るなまえ。

熱に苦しむ今でも彼女の言っていることが滅茶苦茶であり、真面目に考え始めると頭がおかしくなってしまうに違いないだろうことは分かる。なまえは天使でカミュは王子。一体どんな物語を作りたいのだ、この二人は。

もはやおれの手におえる領域ではない。

そう悟ったあとは妙にすっきりとした気持ちになった。
放置、そう、放置しよう。
それがおれにできる最善だ。
なまえは今度は王子から進化して神になったカミュの話をしている。そういえばカミュも前はなまえのことを天使ではなく聖女かもしれないと称していた気がする。


互いに互いのことを進化させ続けてもはやどこまで行くのかおれには想像もつかない。

「ミロ、大丈夫ですか? 本当につらそうです」

「いや、大丈夫だ。眠れば治る」

「では、眠るまでわたしが元気の出るお話を……! カミュ考察論文集第一節『カミュの素敵成分について』です」

「頼む止めてくれもう良い」

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