「こーんな暗い所に引きこもっているから、考えまで暗くなっちゃうんですよ!」
地上から持ってきたらしい大量の花を勝手に玉座の横に添えたなまえは人差し指をたててそう言い切った。まったく余計なお世話だということだ。冥界に引きこもっているから暗いわけではないし、そもそも自分は暗い存在ではないと思う。…明るいわけでもないのだろうが。
「たまには地上に出てみませんか」
「余計な世話だ、なまえよ」
「だって秋ですよ、秋!夕焼けはすんごい綺麗ですし、ご飯は美味しいし、紅葉も綺麗ですし…、それから、それから…」
お月見、お餅、鈴虫の鳴き声にと次々と実に楽しそうに秋について語っていくなまえとふと目があった。
「?」
「…楽しいか」
「楽しいですよ!」
「そうか」
「行きます?」
「行かぬ」
そもそも余は冥界から出るつもりはないということを、この女はいつになったら理解してくれるのだろうか。地上に引きずり出そうと機会を狙っているあたり、恐らく全く理解はしていないのだろうが、なまえの誘いをはねつけるのはこれで何度めだろうか。余としてもそろそろこの下らぬやり取りにも疲れを感じてきている。
「ご飯も美味しいし、お米の田んぼなんかも覗いてみると物凄く情緒が溢れてますよー!」
「……」
「…行きます?」
「行かぬ」
「えぇー!」
地上にはもう出ない。
だがもはや出る必要もないのだ。地上を楽しげに語るなまえがいれば、ここから出なくとも地上の明るさや暖かさ、そういったものは全て手に入るのだから。
それで十分
(余のために語り続けよ、地上の歌を)
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