Project | ナノ
ぶふっと突然吹き出されて顔が引きつる。
それは随分と久しぶりのことだったが、しばらく前まで日常茶飯事だった笑い。同時に久方ぶりに感じる頭痛に額を抑えてため息をついた。


「お前な……」
「ちが……っ! 悪気はなかったの、今のは悪気は無かったのよ! でも前の事を思いだしたらつい……!」
「悪気が無いならなお悪いと思わねえか?」

キスやハグをしようとしたときに突然吹き出すこの女の悪癖。
この女がムードクラッシャーたる所以。

しかし妙に距離を置くようなその行為の原因が明らかになってからはしばらく平穏そのものだったのだが、どうやら完全に克服されたわけではなかったらしい。


いつまで繰り返すつもりだと言えばなまえも困ったような顔をして息をついたがちょっと待て、原因は全部お前の方にあるだろう。


「やだ何その顔、怒った?」

ソファにごろりと横になったなまえに対して顔を顰めるとそう問いかけられる。

「これくらいで怒るか」
「デスって怒りんぼじゃない」
「誰がだ。俺は聖域の脳みそ筋肉集団に比べたらよほど冷静だぜ」
「自称“俺は聖域の脳みそ筋肉集団に”以下略」
「喧嘩を売っているのか」

まさかそんなことするわけないじゃないと言いながら起き上がったなまえがソファに詰めて座ると空いた場所を叩いた。座れと言う事か。断る理由もなく黙って座って足を組むとやつはじっと俺の足を見て呟く。

「足が長くて頭にくるわ」

言いながら肩に頭を預けてきたなまえにお前の足は短いからなと軽口を叩こうかと思ったが後々面倒なことになるのは分かりきっているために止めた。なまえもそれ以降口を閉ざしたまま何も言わなくなって沈黙が広がる。


カチカチと時計の音だけが進んでいく音を聞きながら目を伏せた。


そろそろ昼食の時間だが、今日の昼は何にするか。

トマトがあるからなまえの好きなトマトとナスのパスタでも作ってやるかと思ったところで奴の気配が動いた。しかしいちいち気にするような相手でもないために目を閉じて放っておいたところで頬に何かが触れる。ちゅっという軽いリップノイズの後に目を開いてなまえを見ると珍しく赤面したなまえは気まずそうに視線を落として呟いた。


「さっき笑っちゃったお詫びね」


それだけ言うと照れたのかなまえは立ち上がるとさっさと台所に駆け込んだ。

一人ソファに残されて唖然とした後に、ゆるゆると緩んだ口元を片手で覆う。

何を考えてなまえがあのような行為に及んだのかなど、恐らく特に何も考えていなかったというのが答えだろうが、俺には理解できない。

それなのにたった一度のキスがこんなにも後を引くのだから実に不気味なものだ。
慈しみだとか愛しいだとかそんな感情を抱く俺は気持ちが悪い。だからといって冷静になろうと瞼を閉じてみたところで思い浮かんだのはやつの間抜け面だった。まったくこれでは何をしても無駄ではないか。そうだ、結局のところ無駄なのだ。


ばりん
ぼりん
ばしゃん
がりがりがりばごん

やがて本来台所から聞こえるはずのない奇妙な音が響き始め、挙句の果てには悲鳴が追加される。

そろそろ助けに向かわないことには台所が吹き飛びかねん。
その考えに肩を竦めて立ち上がった。そしてまたひとつ悲鳴があがる。


それにしても惚れた弱みってやつはどうしてこうもふざけた感情にさせるのか。
何故なら信じられるものか、ムードと共に台所も破壊しようとしている女を可愛いと思うなんて!

top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -