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カミュは余計なことをあまり言わない。

口数が極端に少ないというわけではないが、彼にとって無駄なお喋りなんてものは彼の信条に相応しくない物として喉のずっと奥で封印されて凍りついているに違いない。
そう思うくらいカミュは余計なことを言わない。愛の国出身のくせに終ぞ彼から甘い言葉なんて一度も聞いたことが無いという事実にそれがよく証明されていた。その代りに彼は態度や表情でよくそれを表してくれているのだろう。


「カミュ、カーミュ!」

例えば彼はずっと遠くにいても呼び掛けには絶対に振り向いてくれる。

長い付き合いだからこそ、わたしの呼びかけの大半が無意味であるということを知っているだろうに彼はわたしが名前を呼べば絶対に振り向いてくれた。時には歩み寄ってきてくれて頭を撫でてくれる。それは弟子たちと同じ扱いだったがそれでもわたしは幸せだった。腰にしがみつくように抱き着けば背中に手を伸ばしてくれることもわたしはとっくの昔に知っていたから。だから今日も今日とて私は彼にしがみつく様に抱き着く。


「どうした、なまえ」
「んふふ、好きすぎてくっつきたい気分」
「そうか」

それだけ。「私も好きだよ」とか「気持ち悪いなお前」とかそういう言葉は一切ない。でも抱きしめ返してくれるからわたしは十分幸せだ。そう思った瞬間に引きはがされた。なんてひどいひとだこの恋泥棒! そう思った瞬間に頬にキスをされる。呆気にとられて見上げると、綺麗な色のひとみにわたしが映り込んでいた。

「ありがとう」なんて言葉に加えた微笑みを最後に、彼は踵を返して行ってしまう。そういえば買い出しに出なければならないとさっき言っていたカミュの言葉をすっかり忘れていた。


それにしてもたった今気が付いた新事実によると、やはりカミュは洗練された言葉にしても態度にしても直球なものが多いかもしれない。

ああそうか。だからいつもわたしは心臓が破裂しそうで大変なのか。

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