「子供だったのは、私なんだ…
なまえが他の奴には笑うのに、私にはいつも笑ってくれなくて。
だからあれこれ文句を付けて…これじゃあ本当に子供みたいだ。」
「え…?」
「嫌いだなんて嘘だ。
本当は気になって仕方がなかった。
私にだけ笑ってほしいのになまえはいつも私には笑わない。
だから意地になってあんなふうに言って…」
「あ、あの……アイオロス?」
「今さら遅いかもしれない。
でも私が悪かったんだ。
私がつまらない意地でなまえを泣かせて…
本当は好きなのに。
嫌いで当然だ。
今の私は君に相応しくない。」
「え、あの……」
「ゴメンね?
でもきっと、これは恋だったんだ。」
「は?
え……、えぇ??」
「君を泣かせる男に、君を好きでいる資格はないよね。
だから次は私のようではなく、もっと素直になまえを愛してくれる人を選んで。
本当は私を選んでほしいけど…
私はなまえが笑っていれば…もうそれだけで良い。」
スッと体が離される。
泣きそうだと思った顔が今は涙でぐちゃぐちゃだ。
私も、アイオロスも顔中ずぶ濡れ。
「―――って、こんなの納得できるかァ!!」
「え、あの、なまえ?」
「なんで過去形だ!?
なんでそこまで言ってもう一押ししないの!?
私が馬鹿みたいじゃない!
こんなの私も馬鹿だけど、アイオロスも馬鹿じゃない!」
きったない顔のままアイオロスの胸倉を掴む。
私を見下ろすのはやはり泣き濡らしたままのアイオロスの顔。
「…涙で顔、ぐちゃぐちゃだ。」
「アンタもよ!
無神経!
なんでこんな人好きになったのよ私!
もう馬鹿らしい!
私もっと大人になって次は貴方よりもっともっと大人の男と恋をするわ!」
「――――ヤダ。
私はやっと君への恋に気付いたのに、もう終わりにしないで。
もっとなまえと恋したい。
やっぱりなまえが良い。」
「嫌よ!
私はもう泣くのも辛いのも悲しいのも嫌!
次の恋を最後にするの。
愛した分だけ愛される恋をするのよ。」
「私が全部してあげる。
だから私にもう少しだけ時間をくれないか?」
「充分過ぎる程貴方に時間を使ったわ。
私ももう何度も恋が出来る程若くはないの。
次は…そうね、サガみたいな人を選ぶのわ。
落ち着いた大人の男を好きになるの。」
「ダメ。
絶対ヤダ。
離したくない。」
「今さらムシの良いこと言わないで。」
抱きしめようとする腕を掴んで制する。
取っ組み合いの形になって一歩も引かない。
いわゆる千日戦争のような形だ。
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