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頭をそっと撫ぜられて意識が浮上した。


少しの休憩のつもりだったのだが、どうやら眠り込んでしまっていたらしい。ソファに座ったまま眠っていたせいか僅かに動かしただけだというのに首が痛んだ。それにしても一体誰が私の髪に触れているのだろうか。気配で大体の想像がついていたが、目を開けると予想外なほど近い距離にあった漆黒の瞳に少しばかり呆気にとられた。


私の膝の上で頬肘をついて私の顔を覗き込んでいたなまえは、私が目を覚ましたことに気が付くと顔を輝かせる。


「おはよう、ディーテ!」
「…ああ、おはよう」

よく眠れたかという問いにそれなりだと答えを返し、彼女の髪に手を伸ばした。
さらさらの髪を梳いてやりながら問いかける。

「なまえ、君は人の顔を覗き込んで何をするつもりだったのかな」
「別に寝込みを襲おうなんて考えてないよ?」


なまえのような非力な女に寝込みを襲われる気などさらさらない。彼女はふにゃりとした情けのない顔でとんでもないことを言ったが、あまりの下らなさに文句を言う気も起きなかった。

それでも寝顔を覗き見られているというのはあまり気分の良いものではない。
少しばかり仕返しをしてやろうと彼女をからかうことに決めて口を開いた。


「寝込みを襲う気がなくとも、人の寝顔を眺める御大層な趣味は持っていたわけだ」


くすりと笑いながら言えば、なまえはきょとんとした後に慌てたように首を振る。

「ええっ!?違うよ!こんなところで寝ていると風邪ひいちゃうって思ってシーツかけてあげたんだよ!」

ま…、まあその後で寝顔眺めていたんだけどね!と胸を張って答えたなまえに少しばかりの呆れを覚えた。

予想通り慌てたところまでは良かったのだが、まさか寝顔を眺めていたというのを肯定されるとは思わなかった。見慣れているだろう私の顔など眺めて一体何が楽しいのだろうかということも理解ができない。だが彼女が私にかけたらしいシーツが指先に触れると、そんなことはどうでも良くなった。


「わざわざありがとう」
「どういたしまして!」

彼女の頭を撫でてやりながらそう言うと、なまえがさらに口元を綻ばせて私の手に触れた。
擦り寄ってくる猫のような姿に自然と笑みが零れる。なまえはそんな私の表情の変化を知ってか知らずか、さらに笑みを深めて言った。


「あのね、それでね、ディーテのこと見ていたら、好きだなあって再確認したの!」


相変わらず突拍子もないなまえの言葉にほんの一瞬だけ呆ける。だが身を乗り出して「ね、アフロディーテは?」と問う彼女の笑顔に、すぐに口元が緩んだ。

笑みを零した私を見た途端、首元に飛ぶように抱き着いてきたなまえに、まるで子供だと考えながらもその背中に腕を伸ばす。そして、そのまま回答をせがむなまえに浮かんだ感情を告げるべくゆっくりと口を開いた。

「そうだね、私は……」



そっと耳元で囁いた言葉に、なまえは固まった。

体を離し、もう一度髪を梳いてやればようやく彼女は頬を僅かに染め、「本当?」と尋ねてくる。こんなところで嘘をついて一体何になると返すと、なまえはすぐに蕩けるような笑みを浮かべ叫んだ。


「ディーテ、大好き!」
「それは光栄だ」

以前まで好きだとか嫌いだとかの幼稚な一言で一喜一憂する人間は馬鹿だと思っていたのだが、残念なことに自分も馬鹿の仲間だったらしい。どうしても緩んでしまう表情にほんの少しの困惑を感じながらも、先ほどから感じる感情に抗うこともできずにただ彼女の額に口づけた。


(幸せだと、そう感じたんだ)

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