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ぱたぱたと箒を掃く。掃除は好きだ。部屋が綺麗になっていくのはとても楽しいし、宮の主が喜ばれるのも嬉しい。ということで、朝からはりきって双児宮の周りの掃除を終え、宮内に移動する。まずはプライベートルームに行って箒で掃いてから、と考えた瞬間大声が聞こえてきて溜め息をつきたくなる。ここで働き始めて早数カ月。部屋に確認しに行かずとも分かるようになってしまった。どうやらあのお二人は今日も朝から喧嘩をされている、ようだ。






「馬鹿者、カノン!お前の行いについて一から十まで述べてみるが良い!」

「ならばサガ、お前も述べてみろ!俺と同じくらいろくでもない事をしているだろうが!!」


ぎゃあぎゃあと聞こえる兄弟喧嘩は収まる兆しが見えない。長らく此処で女官をしているから、こういうときどうすればいいのかよく分かっている。気にせずに、自分の職務を続けよ、だ。


「失礼します」


そう言って室内に足を踏み入れる。やはり部屋の中央で大騒ぎをしているのはこの宮の主であるサガ様とカノン様だった。なんだろう、確か昨日は歯磨き粉をチューブの後ろからきっちり絞れという話で喧嘩をしていたな。ええと、一昨日はタオルのたたみ方、その前は胡椒の位置について、そのさらに前は…ええと、なんだっただろうか。あまりにも些細な事で忘れてしまった。ともかく今日は一体なにが原因でお二人は喧嘩をされているのだろう。お風呂の温度?コーヒー豆の挽き方?うう、気になるけれど、とりあえずは掃除を先に済ませよう。何度も経験してよく分かっていることだが、このお二人の喧嘩は私には止められない。


「いいか、カノン!仮にもなまえは女性であってだな、お前のような悪人面が無理やり迫ってきたら恐怖で抵抗もできなくなるということを何故考えない?つまり私が言いたいのはなまえに強引に迫るのはやめろということで」

「黙れ、愚兄が!いちいち話が長い!それからお前は俺を悪人面と言うがな、お前と俺は同じ面だろ、お前に言われる意味が分からん!それからどう考えても俺は悪くない。なまえが無防備なのが悪い」

「愚弟め、貴様の目は節穴か!たとえなまえが無防備だったとはいえ、それはお前に迫って貰うためではないわ!」

「ふん、まさかお前のためだなどと寝ぼけたことを言うつもりではないだろうな、サガよ」

「お話が立て込んでいるところ申し訳ないですが、ちょっとどいてもらえますか」

「ああ、すまない」


ぱたぱたとサガ様とカノン様の間を掃く。素直にどいてくれたのは良いが、すぐに別の場所で口論が再開している。一体なんだというのだろうか。それにしても、掃除をしている最中に同室で口論をされているのは私としても些か気まずいものがある。何が原因だかよく分からないが早く仲直りしてくれると嬉しいのだが…。


「なまえは少し抜けていて、いやそこが可愛らしいのだから文句をつけるつもりはないが…、いやそうではなく、その抜けているところをお前が利用するのが私は我慢ならなんのだ!いいか、普段私は任務や後輩指導で宮を留守にすることが多い。それに比べ、お前は海界の間を行き来し、交流を持つ以外ろくに仕事もせずに宮でだらだらだらだらと!これではフェアでない!お前のほうがなまえに近づきやすいではないか!!」

「訳分からんことを抜かすな!そもそもフェアだのフェアでないだのと、今はそんな話ではないだろうが!!というか、そんな訳分からんことで文句を言うのならほいほいと仕事を貰ってくるのはやめることだな!お前の仕事が遅くなる度に、毎回夜中までお前の帰りを待っているなまえの心労を考えたことがあるのか、愚兄が!!」


どうして先程からちらりちらりと私の名前がお二人の口に上るのだろう。私は何か失態でもしてしまっただろうかと考えた瞬間、少しの不安にかられる。どうしよう、お二人はいつも良くしてくださるのに、私は一体どんな無礼をしてしまったのだろうか。


「………」


ちらり、とお二人を見る。カノン様の綺麗な蒼い目と目があった。


「この際、なまえに聞いてしまえばいいではないか!」

「ふん、愚弟にしては良い考えではないか」

「はっ、お前の凝り固まった脳味噌に比べたら俺の意見のほうが良いのは当然だろう」

「なんだと?」

「なんだよ、文句があるならかかってこいよ」

「フッ、自ら消滅を望むか。ならば喰らえ、ギャラクシアン…」

「上等だ、お前こそ喰らえ、ギャラ…」

「わー!わー!!止めてください、サガ様!カノン様!!」


この間もお二人のギャラクシアン・エクスプロージョンのおかげで双児宮が半壊して教皇様に三人でとても叱られたのだ。もう私はうろたえるな小僧どもをあびたくない!慌ててお二人の間に割って入れば、サガ様と目があった。


「…なまえ」

「は、はい?」

「私の質問に答えられるな?」

「もちろんです、サガ様!」


私は貴方の宮の女官ですから、私に出来ることでしたらなんなりと!と答えれば、彼の瞳が満足げに細められた。それにしても本当に美しい方だと思っていると、後ろから思い切り肩を掴まれた。驚いて振り返ればそこにはカノン様。


「なまえはこんな仕事のことしか頭にない堅物男より俺のほうがいいだろう?」

「は?はあ…」

「いいや、こんな悪人面の下品な顔つきの男より私のほうがいいだろう?」


何故そんなことを私に聞くのだろうか。サガ様もカノン様もそれぞれ良いところがある、それではいけないのか?というか、彼らは私に一体どんな答えを求めているのだろう。もう訳が分からない。


「え、ええと…」

「ほら見ろ、カノンよ。お前が恐ろしくて正直に答えを言うこともできないではないか。さっさと去れ」

「どれだけご都合主義な頭をしているのだ、サガよ。俺ではない、お前がいるからなまえがこんなにも小さくなってしまっているんだ。お前こそさっさと出ていけ、お前のような仕事病がいるとなまえの気も休まらん」


どうして私の話になっているのだろう。というより私を挟んでそのような訳の分からない話をしないでほしい。平均身長の私が挟まれるにはこのお二人は背が高すぎる。ああとても、威圧感…。


「ああ、もう良い。なまえ、単刀直入に聞くぞ」

「でっ、できれば私にも理解できる簡単な問題でお願いします」

「俺と」

「私と」

「どちらが」
「好きだ?」

「…はい?」

「私だろう?朝は美味しいコーヒーを淹れてくれて、仕事を終えれば暖かい風呂と食事の準備が済んでいるし、たまにシエスタなどしてみれば、そっとシーツをかけてくれる。私を嫌っている人間にこのような行為ができるものか」

「ふん、寝ぼけたことを言うなよ、サガ。ちゃんちゃらおかしくてへそで茶が沸くぞ。俺など朝にはなまえが起こしてくれるし、コーヒーと新聞をすぐに準備してくれる。海界に任務で出て帰ってくるときには宮の外まで出迎えてくれる。俺のほうがお前より好かれている」

「馬鹿め、お前のそれは彼女の好意の表れではないわ。仕事の一環だということが何故理解できん?」

「ふん、一字一句もれずに全てそのまま返してくれる」

「…………」


さあ困った。ちらりと見えた時計は11の数字を刺している。そろそろ昼食の準備をしなければならない。だが、お二人に挟まれているせいで、この意味があるかも分からぬ話題からこっそりとお暇することもできない。さあ、どうしようか。


「なまえ!」

「はっ、はい!!」

「お前は俺の質問にはいと返せばいいだけだ」

「はい、」

「俺が好きだな?」

「いいや、なまえよ。愚弟の質問になど答えなくともよい。私の質問に頷いてくれ。私が好きだろう?」

「邪魔をするな、愚兄!」

「その言葉をそのまま叩き返してくれるぞ、カノン!!」

「くそ、とにかくお前は黙っていろ!なまえ、俺はお前が好きだ!」

「いいや、私のほうが好きだ」

「そのようなお言葉をかけて頂くなど女官としてとても嬉しいです」

「そうではなくて…!ちくしょう、とにかくサガ!お前より俺のほうが好かれている!」

「いいや、私だ」

「…?…?」


ああ、また会話がもとの場所に戻ってしまった。これはどうやら長引きそうだと思った瞬間、カノン様が私の頬にキスをした。


「は、え!?」

「こいつは俺の女だ」

「女性に許可なく口づけるなど無礼千万だぞ、カノン!私はお前をそのように育てた覚えは」

「俺だってお前に育てられた覚えなんかあるか!!ああとにかくなまえ、お前が答えれば良いんだ!俺と」

「私と、」

「どちらが好きなんだ?」
「どちらが好きだ!」

「え、えーと…、お二人とも、とてもお優しくて良い黄金聖闘士様だと思います。私は、女官としても、地上に生きる人間としてもとても尊敬しております。ですから、どちらが好き、とかではなく…」

「聞いたか、カノンよ。今の言葉は私のものだ」

「ふん、何を言うか、サガ。なまえの言葉は俺のもの、これが鉄則だ」

「いつからそんな鉄則が決まったのだ、愚か者!!」

「……えー、と…」

ああ、本当に困った。
お二人の喧嘩は、まだまだ終わりそうに、ない。


エンドレス・ループ
(彼らは何がしたいのでしょうか?)

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