Project | ナノ
拝啓、お母さん。

お久しぶりです。なまえです。お元気でしょうか。
私は日々忙しいながら、とても元気です。

私は、無事新年を迎えることが出来ました。
母さんもそうであることを祈っております。

さて、本日手紙を書きましたのは、私の出生に対する疑問が浮上したからなのです。唐突ですが、私の父は、本当に人間だったのでしょうか。もしも、私が人の子だとしたら、もはやことわざの蛙の子は蛙なんて利用価値のかけらもない言葉になってしまいます。一体、なぜそのようなことを私が言うに至ったかと言いますと



「み、耳・・・!ふわっ、し、しっぽまで・・・!!!」

ガシャンと大きな音を立てて手に持っていた手鏡が石畳に落ちた。細やかなガラスの破片が飛び散っていったが、もはや私にはそれを気にしている余裕はない。というより、私と同じ状況に陥って平静に鏡の心配をできる人間がいるなら見てみたい。

頭からはひょっこりと、兎の耳、違和感のある尻を触ればもふもふの兎のしっぽ。

「これは一体なんの呪いだ!」

項垂れるようにして地面に倒れ伏すこと、早10分。
窓から差し込む朝の光と、小鳥のさえずりに、私の背中を冷や汗が流れていく。


あれ?
今日は確か、沙織ちゃんが黄金聖闘士たちと新年会をやるとか言っていなかったか?

あれ?
それで私、それに招待されちゃっていなかったか?

あれ?
私はそれを、大喜びで承諾しなかったか?


「あれー・・・?」




やばいやばいやばいやばい。
どうする!?どうしたらいい!!?助けてドラ○もん!!!こんな恰好で、彼らの前、主にデスマスクさんの前に出てみろ!一生笑い物だ!むしろ私の家系全て笑い物だ!!子孫からも呪われるに違いない!!ああああ、だめだ、私がこれからも穏便に聖域で生活していくにあたって、この耳としっぽはあってはならない!どうする?逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、・・・って逃げればいいんじゃん!

っいやいやいや、どこに!!!!?
聖域のなかじゃ、場所の把握など小宇宙で一発だ。逃げ場なんてない!避難所もない!!ああ、どうしよう!

風邪を引いたということにしようか?いや、駄目だ。以前風邪を引いた時、本当に有難かったのだが、黄金聖闘士の皆さんが総出で看病に来てくれた。それは大変に嬉しいのだが駄目だ!耳が、しっぽがばれる!!

「ああああああ!!運命の女神よ!!何故このような残酷な未来を紡ぐのか!!」

運命は残酷だ!!



ふいに、耳がぴーんと立ったのを感じる。そして、遠くからする足音。迷うことなく真っ直ぐに私の部屋に向かっている。やばい、やばいやばいやばい。

どうしよう?と、とりあえず隠れるんだ、私!!どこに?ああああ、ク、クローゼット!!
ばたばたと慌てて、室内に据えられたクローゼットの中に飛び込む。そして気付く。扉が閉められない。あああああ!!!私の馬鹿あああああ!!だが、足音はもうすぐそこだ。仕方ない、妥協も大事だ。ギリギリまで扉を閉めた私は洋服に埋もれるようにクローゼットの最奥に膝を抱えて隠れる。

ああ、クローゼットの中に入るなんて、何年振りだ。小学生低学年のかくれんぼ以来じゃないか?ああ、なんか、暗いし、独特の匂いだし、寒いし、すごくわびしい気分になってきた。ああ、なんで私がこんなことをしているんだろう?なんだか、馬鹿みたいじゃないか?
だが、ふいに扉が開いた音に、見つかってはまずいと思わず息を飲む。

「っ」
「あれ、なまえ?」

ア、アアアアア、アイオロスさんだ・・・!!!
なんだろう。物凄い恐怖感を感じるのはきっと気のせいではない。彼はめちゃくちゃ勘が良い人だ。彼に見つかったらそれこそ終わりだ。面白がって皆の前に引きずり出される。勘弁してくれ!ああ、女神、助けてくれ!!

「おかしいな」
おかしくない!私だって部屋から出ますよ!だから、おかしくないですよ、アイオロスさん!お願いだから、私はいないと諦めて早く出て行って・・・!!

「ちょっと失礼」
何するつもりなんですか!ああ、状況が見えないから怖い!しかも足音がなんかこっち向かってきている!!失礼って、どこに失礼?ああ、怖い怖い!なんだこれ、ホラーか!!ああ、頼むから私の部屋から早く出てくれ!

必死に顔の前で手を組んで、私の部屋のある教皇宮の一つ上におわすだろう女神に祈ってみたのだが、ふいに光が顔に差し込み驚いて顔をあげれば、そこには少し驚いたように私を見るアイオロスさんが、クローゼットの洋服をかき分けて、

「・・・なまえ、・・・随分と、可愛らしいことになっているね」

目を丸くしていた彼は、ふと口元を上げると体育座りで洋服に隠れていた私を見下ろして呟いた。

「ひっ!」
「誘っているのかい?」

そっと頬に延ばされた手は、そのままゆるゆると下に降りて行き私の首筋を撫でる。
僅かに身を縮めたのが面白かったのか、アイオロスさんはいつもの爽やかさなど何処へやら、朝っぱらから妖艶に微笑んで耳元に口を寄せた。

「可愛いよ」
「やっ、ちょ・・・、アイオロ、ス、さ・・・!」
「新年会なんてどうでも良くなってきたなぁ」
「そ、そうですか・・・!あの、で、できれば、どいて、ほしいな、なんて・・・」
「嫌だ。・・・ね、なまえ。このまま二人で」

そう私の耳元でささやいていたアイオロスさんが、物凄い勢いで離れて行ってくれたため、ああ助かったと息をついた瞬間、良く知った声が響いて、私は状況が何も好転していないことに気付いた。

「何しているんだよ、アイオロス!!!」
「アイオロス、なまえから離れてもらえますか」
「ミ、ミミミ、ミロさん!カミュさん!!」
「ん?・・・ま、まさか、なまえ!?」
「ぎゃー!見ないで下さい!!私のせいで笑い物になった子孫に末代からも呪われます!!」

半ば叫ぶようにそう言い切って、再び洋服の詰まったクローゼットの奥に逃げ込んだが、ミロさんの大きな手が脇に通されてそのまま引きずり出されてしまう。ああ、今日は厄日だ。人生最大の厄日だ。

ああ、だが世間は新年だ。冬だ。寒いから鍋とかやるんだろうなぁ。兎鍋か。私を鍋に入れて煮込むのか。くそう、毒素を出してやる!!

「うわ、これ、ほんもの?」
「そ、そのようだ・・・」
「なな、なんですか!!さ、触らないで下さいっ!!」

耳をもふもふと握る二人の手をぱしりと叩けばすまんと呟いて、二人は離れてくれた。

「アイオロス、なまえに何したんだ?」
「私じゃないよ。私が来た時には、もう」
「なるほど、クリスマスの奇跡ならぬ正月の奇跡か」
「いや、カミュさん、訳の分からないことを納得しないで下さい」

私は目覚めてから今この瞬間まで本気で悩んでいると言うのに!!

じとっと睨みつければ、彼は困ったように私の頭を撫でてくれた。

「だが、なにも問題はない。このままでもいいのではないか?」
「よ、良くないですよ!!こんな姿、皆さんに見られたら、笑い物に!!」
「そうか?俺は可愛いと思うけどなあ」

そう言って笑って私の頭をわしわしと撫でたミロさんの隣でカミュさんとアイオロスさんも同意してくれる。可愛いと言ってくれるのはたとえお世辞であっても嬉しいのだが、こんな可愛いうさみみなら、私ではなく沙織ちゃんが持つべきだったのだ!私がやったらコスプレ(笑)になってしまう。(笑)が傷をさらに深く抉る!!

「・・・ということで、私は今日の新年会は欠席させてもらいます・・・」
「なまえ・・・」
「仕事が入ったとでも伝えてくださるとうれしいです・・・」

そう言って、ベッドにうつ伏せになったまま倒れこむ。畜生、全部このみみとしっぽのせいだ。どこから生えてきやがった。どうして生えてきやがった。植物みたいににょきにょきとか?おっそろしいわ!そんな女、自分で嫌だ!

「今日は、デスマスクが腕によりをかけて日本の正月料理から、中華、イタリアンと食事を担当していたけど?」
「ぐっ」
なんという精神攻撃!私に一万五千のダメージだ。もう止めてー!私のライフはゼロよ!

・・・くそぅ、さすが聖域の英雄。やることが卑劣すぎる。

「それに、シュラがマリ○ン・モンローの物真似をやるとも言っていたなあ、アフロディーテが」
「・・・!!!!」
ああ、みたい!!すごく見たい!!あの無表情が服を着て歩いているようなシュラさんがあの、セクシー女王モ○ローの物真似だなんて、見たすぎる!!

うわあああん!!なのに私はいけないなんて!ああ、継母に置いて行かれたシンデレラはこんな気持ちだったのかもしれない。今ならすごい良く分かる!私は灰かぶり!じゃなくてコスプレ(笑)!

「なまえ、行きたいんだろう?」
「・・・・・・・」

うつぶせに転がる私の横に誰かが腰かけて背中を優しく立ていてくれる。この低くて耳に心地いい声はアイオロスさんだ。

「な、なまえ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・よし行こう。今すぐいこう。我慢は良くないよ。それに私は君を呼びに来たんだから」
「ぎゃー!!何するんですか!!いやーっ!止めてください!!アイオロスさん!!」
「さあ、ミロもカミュも行くよ」
「ああ」

私の騒ぐ声などまったく聞こえないかのように澄ました顔で付いてくるカミュさんと、私を小脇に抱えて良い笑顔を浮かべるアイオロスさんと、さりげなく私の耳をひっぱるミロさんにこの上無く殺意を覚える。くそう、これで私が笑い物にされたら恨んでやる!!


「遅いぞ、アイオロス。なまえ一人迎えに行くのにどれだけ時間をかけれ、ば・・・・・・」
「どうしたのじゃ、シオン?おお、なまえ、・・・ウホッ!」
「教皇、老子、どうされました?・・・ああ、兄さん、と・・・なまえ!!?・・・そ、そんな、うぶっ!!!」
「うわ!!おい、アイオリアが鼻血を出して倒れたぞ!?」
「何事だね、アルデバラン。騒がし、・・・・・・・・っ!!!!!」
「おや、シャカが開眼するなんて、新年早々から珍しいこともあるのですねぇ」
「はっはっは、ただいま、皆。見てくれ、可愛いだろう?私の兎さんだよ」
「だ・れ・が!貴方の兎さんですか!ふざけたこと言わないで下さ・・・ってっ、うわ!!!ちょ、や、やめてー!!!」

私を小脇に抱えたまま、良い笑顔でシオンさんたちに適当な紹介をしたアイオロスさんの頬を思い切り引っ張った瞬間、シオンさんと童虎さんが飛びかかってくる。

「この汚れなきもふもふ・・・!!!」
「この天へと伸びる純白のうさ耳・・・!!」
「「まさに萌えの女神・・・!!!」」
「ぎゃー!離してくださいって・・・、ひいっ!!」

耳としっぽに伸びる悪意ある手(少なくとも、私にはそう見えるのだ)から必死に逃れたかと思った、瞬間、目の前に立ちふさがったのは、流れる金髪、異郷を匂わせる聖域では珍しい橙の法衣、そして空を想わせる、蒼い蒼い目。

聖域に置いて、神に最も近い男、

「シャカさん・・・!!」
「なまえよ、」
「ぎゃー!このシャカさん、なんか鼻息荒くていやー!!」
「君にこの私のペットとなる栄光を授けてやろう!!」
「いやー!また電波なこと言っているし!!」
「待ちたまえっ、なまえ!!」
「あ、なまえ!待って下さい!アテナのところに・・・!」

伸ばされた魔の手(少なくとも以下略!)を掻い潜って逃げる。アイオロスさんに抱えられて騒いでいる間に、どうやら新年会の会場であるらしい教皇の間に来ていたらしい私は、広い室内に駆け込む。

「ああ、もう!」
これ以上しっぽを引っ張られたり耳をひっぱられたり兎鍋にされるのはごめんだ!私は人間、私は人間、私は人間・・・!!

「随分と可愛らしいものをつけているね、なまえ?」
「ひゃあっ!!」

ふわりと、誰かに脇から手を通されて持ち上げられる。突然の浮遊感に思わず声を上げれば、私を持ち上げたその人が背後で笑った。

「・・・アフロディーテさん!!」
「これ、なんだい?・・・本物?」
「ぎゃー!朝目が覚めたらついていたんです!!誰の嫌がらせですか!なんの呪いですかーっ!!」

わたわたと両手と両足を暴れさせてみるが、まったく気に留める様子もないアフロディーテさんは私を持ち上げたまま、頭の上の耳を、目を輝かせて眺めた。

「正直私はバニーちゃんに興味はなかったのだけれど、今ならこれに、男のロマンを感じることができるよ、なまえ」
「そうですか、満足していただけたならそれでいいです。でも、そんなおもちゃを貰った子供みたいに目を輝かせないで下さい」
「シュラッ!!デスマスク!!ちょっと!」
「や、やめてくださいよ!!アフロディーテさん!!!あの二人にこんなもの見られたら私はっ」
「「俺たちに何をみられたらどうなるって?」」
「もう終わり・・・」

笑いを堪えるような声、そして珍しく面白そうな声に一瞬硬直するが、固まりつつあった首の筋肉をフル稼働して振り返れば、現実は悲しいかな、シュラさんと、最も避けていた人、デスマスクさんが立っていた。

「はあん?新年の余興かなんかか、なまえ?」
「珍しいことをするものだな。だが新年早々、良いものが見れた。今年は良い年だ」
「だろう?かわいいだろう?私の兎ちゃん」
「どっかの筋肉馬鹿さんと同じようなこと言わないで下さい!!」

いかんせん、後ろ向きに持ち上げられているせいで攻撃が彼まで届かない。しかたなく脇に通された手をぺちぺちと叩けば、彼はようやく私を地面に下ろしてくれた。

「さて、」
「ところで」
「なまえよ」
「・・・は、い?」

先程までの朗らかな好青年たちの笑いなど今やどこへ。手をわきわきとしながら、にやにやとした笑みを浮かべて迫ってくるデスマスクさん。手をわきわきとしながら、にこにこと何処か恐怖心をあおるほど美しい笑顔を浮かべて迫ってくるアフロディーテさん。手をわきわきとしながら、にやりと、悪人面な笑みを浮かべながら迫ってくる、シュラさん。

え?

なにこれ?
私、死ぬの?

「「「いただきます!!!」」」
「きゃー!!!きゃーっ!!!!きゃあああー!!!!」

途端に飛びかかってきた三人から、人生至上最高なほどの瞬発力で避けた私は、そのまま教皇の間を飛び出す。なんだ、あの部屋。危険すぎる。超危険区域だ。怖すぎる。リアルに殺される!!!私が一体なにをしたっていうんだ!!!

「わ、ぁ!」
「こら、廊下を走るな。・・・なまえ?」
「サガ、ササガさん!!」
「何をそんなに慌てて、・・・はっ!こ、これはっ・・・!!!」

ああ、もう。なに?うさみみ萌え?とか、しっぽとか?いらないわ。できれば一生見たくないわ。萌えってなに?本当、萌えってなんなの?疲労の原因だよ、これ。もはや、あのクールなサガさんが、滝のような涙を流しながら私の頭にくっついている耳をもふもふもふもふしていることなんて、どうでも良・・・くない!!ええええ!!!サガさんのイメージ丸つぶれだよ!!なにしているんだ、この人!どこにそんなに感動する要素があるんだ!!

「おい、愚兄!通路のど真ん中で止まるな、邪魔、だ・・・、・・・・・・!!!!!」
「カ、カノンさん・・・!!」

ひーっ!!!!
超重要ってハンコの押してある書類落としている!そのまま固まっている!!ああ、やっぱり私のこの姿は凶器ですよね!!怖いですよね!!幽霊も尻尾巻いて逃げ出しますよね!!ああ、耳としっぽが生えたのが、私でごめんなさい・・・。


「なまえ」
「・・・もう煮るなり焼くなり好きにして下さい・・・」

できるなら、次に生れてくるときは、しっぽとかうさみみとか生えていない生き物が良い。激しく希望する。もうしっぽは嫌だ。うさみみは嫌だ。



「なまえ―っ!!!」
「出て追いでー、私の子ウサギちゃーん!」
「てめえ、アフロディーテ!気持ち悪いことぬかすなよ!!」
「なまえ―!どこだい!?そのガーリーな姿をもう一度見せてくれ!!」
「ひいいい!!なんか皆きたあああ!!」
「・・・ああ、・・・・うん、・・・なるほどな」

廊下の角の向こうから響き始めた黄金聖闘士たちの声。今の私には地上を揺るがす魔獣の咆哮にしか聞こえない。だがカノンさんは私の姿と、廊下の向こうを何度か見て、全て納得したらしい。馬鹿な奴らめと一言呟いて前髪をかきあげた。くそう、こんなところでイケメンポーズしている余裕があるなら助けて欲しい!!

「わ、」

ふわりと、浮いた、そんな気がした瞬間。

顔のすぐ横に、カノンさんの綺麗な顔が、ある。

「なまえ、お前、実はウサギの化身だったのか?」
「違いますよ!!なんですか、ウサギの化身って!!」
「いや、・・・相当、・・・かわいい」
「え」

至極真面目な顔で、そう言い切ったカノンさんに思考が固まる。彼はなんと言った?かわいい?誰が?私が?いやいやいや、これはなんの夢だ?彼のような素敵な人が、そんな馬鹿な!!

「こんな可愛いものを、あの馬鹿どもに見せるなど勿体ないわ。ということで、俺は、新年会はサボる。お前も、サボれ」
「・・・はあ、」

そちらのほうが、皆から耳を引っ張られないし、しっぽを引っ張られないし、兎鍋にされる可能性もなくなるし、私にとっては好都合だ。好都合すぎるほどに。だがそれもまた一興であると、私は彼の言葉に頷いた。

それに満足そうに口端を上げたカノンさんは、ふと、隣で未だに私の耳をひっぱるサガさんに向き直る。

「お前もサボるんだろ、愚兄?」
「無論だ」
「くくっ、優等生の貴様がサボりなどチャンチャラおかしくてへそで茶が沸くな」
「フッ、愚弟となまえを二人にするなど危険な真似を私が犯すと思うか?不健全だ!二人になった瞬間美味しく頂いてしまおうと言う魂胆が丸見えだぞ、カノンよ!!」
「えええええ!!?やっぱり兎鍋にするんですか!!?やめてください!!私は人間です!!!」
「・・・お前、馬鹿だろ」

カノンさんが、隣で呆れたように息をついた。

そして、何かを言おうと口を開いたが、それは廊下の向こうから駆けつけてくる無数の足音に飲み込まれた。そして、彼らはそのまま窓に手をかけると、私を抱えたまま外に飛び出す。

「なまえ」
「なんですか、サガさん」
「君は本当にかわいいね」
「な・・・、・・・なななにを言うんですか!正気ですか!!カミュさんが凍らせた豆腐の角に頭でも打ちましたか!」
「照れ屋なところも、」
「黙れ!愚兄!貴様は黙っていろ!!」
「なんだと、愚弟!」
「ああああ!!教皇宮の皆さんに気づかれたくないので黙ってくださーい!!」


彼らが地を蹴る音しか、
風の音しか、
木々が揺れる音、
小鳥の歌う声、

遠く教皇宮の喧騒しか、


今は聞こえない。



だが、幸か不幸か、とてつもなくさまざまな音を拾う今の私の耳は、彼らが口を閉じる直前に、同時に呟いた声も、ばっちりと聞きとってしまっていた。



「「なまえ」」



「私は君を」
「俺はお前を」
「「愛している」」

ああ、なんてこった。

彼らの気持ちなんて、私はかけらも知らなかった。

これからきちんと彼らの目を見て会話ができるだろうか。

答えはNOだ。もうすでに、心臓が爆発しそうなくらい鳴り響いて、顔は熱くて仕方がないのだから。



だが、もしも、

もしも、彼らの目をまっすぐにみられる日が来たなら、私もきちんと想いを告げよう




大好きよ、ディオスクーロイ
(ムウ!!ウサ耳うさぎしっぽのなまえさんはまだですかっ!!)
(アテナ、双児宮に逃げられました)
(特攻しなさいな!!)
(サガとカノンが迷宮を作り出したせいで、誰も入れません)

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