Project | ナノ
勘弁してくれ。本当に。


今日は、私の部屋で乙女座の聖闘士シャカを誘って、お茶をする約束をしていたのだ。
確かに今日、私が誘ったのは、彼一人だったはず。

それなのに、どうして黄金聖闘士だけでなく、教皇シオンまでもが皆、私の部屋に集結しているのだ!!
もちろん地上の愛と平和を守る戦士の最高峰ともあって、黄金聖闘士は皆、良い人たちばかりなのだ。

だが、アクが強い、いや強すぎるのは今さら言う必要もないほど公知の事実ではないだろうか。

此処だけの話、その黄金聖闘士の中でも、中々不思議な性格をしているシャカ一人の相手をするのもそれなりに大変なのだ。全員の相手なんて、女神でもなければ、とてもじゃないができないと思う。

だが私の部屋に女神がいるはずもなく。それなのに彼らは私の部屋で勝手に喧嘩を始めるものだから、もはや私に為すすべもない。
まさか技の打ち合いはしないであろう千日戦争ならまだしも、ただの喧嘩になったら巻き込まれて絶対に死ぬ。

なぜなら彼らはただの喧嘩に光速を使う男たちの集団なのだから。
だが、私は何度死んでも生き返る一輝君のような器用な真似はできない。ついでに兄もいないから、瞬君のように「にいさ〜ん」と呼んで助けを呼ぶこともできない。

ああ、シャカ。
早く来てくれ。

私は早く、いつのまにか危険地帯になっている自分の部屋から逃げたくて仕方がないのだ。
一生のお願いを使ってもいい。

「お願い。早くきて、シャカ…」



「…いらっしゃい、シャカ。待ってたわ」
「………」

約束の時間に寸分遅れることなく訪れたシャカは、部屋の中でぎゃあぎゃあと騒ぐ黄金聖闘士たちにわずかに眉を顰めた。
ちょっと待ってくれ。眉を顰めたいのは私だ。部屋の中を大柄な男たちに占領されている今、暑いわ狭いわで私こそが眉を顰めたいのに!

溜め息を一ついた時、肩から回され首に絡みついた腕と、よくしった香水の香りに、私はもう一度溜め息をついた。

「デスマスク、なにか用かしら?」
「おいおい、ひでえな、なまえちゃん。俺たちが来たときは「待っていた」なんて言ってくれなかったのに、シャカには言うのかよ」

泣けるぜ、なんて相変わらず抱きついたまま言うデスマスクをどうしようかと考え始めた瞬間、アフロディーテがデスマスクを蹴り飛ばす。見事に私から離れて飛んで行ったデスマスクは、頭から壁に突っ込んで行った。

一般人ならば見事に病院送りだろうに、さすが聖闘士というべきか、すぐさま立ち上がったデスマスクは無傷でアフロディーテを睨みつける。

「何しやがる、アフロディーテ!!!危ねえだろ!!」
「蟹、なまえから離れないか。上品な彼女に貴さまの下品が移ってしまう」
「薔薇くせえオカマ野郎が何言いやがる!お前こそ、俺のなまえちゃんにその臭い薔薇の匂いが移ったらどうするんだよ」

ぎゃあぎゃあと喧嘩を始めた二人を放って、眉を顰めたまま扉の前で立ち尽くすシャカをソファに移動させる。

すでにそこにはいつの間にやら参上して、何故か私の部屋で書類を片付けているサガがいた。

彼の向かい側にシャカを座らせたあと、この黄金聖闘士たちによる大騒ぎのなかでよく仕事などできるものだと感心する。

「…サガ、ここは騒がしいから執務室で仕事をしたほうがいいんじゃないかしら」
「いいや、ここでいいのだ。君が近くにいると落ちつくから」
「まあ。ふふ、お世辞が上手ね」
「世辞などではない。…私はね、なまえ、君さえよければ、いつだって君に風呂を沸かしてもらいたいと思っている」
「は?」

どうして私が彼の風呂を沸かすのだと言葉の真意を理解しようと、サガの顔を見つめるが、それは彼の頭にのしかかった通称英雄こと、アイオロスによって憚れた。

「サガ、それは俺のために毎晩味噌汁を作れっていう王道文句をひねったつもりなのかい?古いなぁ、しかもわかりにくい」
「アイオロス!邪魔だ、重い!!」
「そんなつまらないことはなまえだってしたくないだろう?だから、なまえ、私のために毎日トレーニングに付き合ってくれないか?きっと楽しいぞ!」
「私じゃ、体力ないからお付き合いするのは難しいですよ。アイオリアと御一緒したらどうですか?」

一般人以下のへろへろ体力の私よりも、同じ黄金聖闘士のアイオリアなら付き合いやすいだろうと笑顔で返せば、アイオロスはとてつもなく衝撃を受けたかのような顔をした。・・・かと思えば、突然サガのシャツの襟を鷲掴みにして何か叫びながら部屋から飛び出して行くから、本当英雄と呼ばれる人はやることが意味がわからない。

「なまえの天然恋泥棒!!!!大好きだああああああ!!!!!」
「なにをするのだ、離せ!アイオロス!!私はまだなまえの傍にいたいのだ!!!!!う、うわあああ!!!」

謎の捨て台詞を残して、あっという間にいなくなった二人に私は意味が分からずに、開きっぱなしの扉を見つめて首を傾げる以外なかった。

「…な、なんだったの?」
「そのままの意味じゃないのか」
「サガもアイオロスも貴女に告白をしたつもりだったんじゃないだろうか」
「シュラ、アルデバラン」

いつのまにか傍に来ていたシュラは呆れたように溜め息をついて、アルデバランはいつものように朗らかに笑いながら言った。


それよりも、今のアルデバランの言葉。…告白?サガとアイオロスが私に?
「冗談でしょう」

あの二人だったら選びたい放題だものと笑うと、シュラはいつもよりもさらに生真面目に表情を引き締めて私の手を握った。
突然なんだという言葉は、僅かに頬を染めたシュラの顔に飲み込まれる。

「…なまえ、だが、俺は本気だ。俺はお前が…っ、…」
「…シュラ?え、ちょ…!大丈夫!?」

シュラが何を言おうとして口を開いた瞬間、彼方から飛んできた薔薇がシュラの眉間にささって彼は倒れこんでしまった。

薔薇を投げた犯人はもちろん魚座のあの人で、振り向けば、未だにデスマスクと喧嘩をしているところだった。
どうやらアフロディーテはデスマスクを狙ったらしいが、デスが避けたせいでシュラは流れ弾をくらったらしい。なんて不憫な人なんだろう!

「大丈夫?シュラ!」

机に伏したままのシュラの肩をつかんで呼びかけるが、まったくなんの反応もない。

「大丈夫だ、なまえ」

これはまさか本当にやばいのではと思っていると、アルデバランが大きな手で、私の行動を制し、安心させるように笑った。

「毒薔薇でもなさそうだし、シュラほどの人がこれくらいでは死にはしない。じきに目を覚ますだろう」
「……、…そう?」

アンドロメダなんて、毒薔薇で心臓を射抜かれても復活したからなと、まったく笑えないことを笑顔で言い放ったアルデバランに私は苦笑する。

「念のため、俺はシュラを医務室に届けに行ってこよう。なまえ、邪魔したな」
「え、ええ。目が覚めたらお大事にと伝えてね」

シュラを持ち上げたアルデバランが部屋から去って行くのを見送っていると、聖域名物の超若づくり最年長コンビが声をかけてくる。

「なまえよ、怪我はないかの。薔薇がシュラに刺さったようじゃが」
「そうよ、童虎、私よりシュラが…」
「あやつは死んでも生き返ってくるような男だから、気にすることはない」
「シオン、貴方って意外と酷いわね」
「フッ、教育に熱心なだけだ。ところでなまえ」
「なぁに?」

きゅ、と手を握られる。シュラに続いてシオンまで。今日はよく手を握られる日だと思っていると、突然シオンと童虎の姿が吹き飛んだ。

「スターダストレボリューション!!!!」
「ライトニングプラズマ!!!!」
「スカーレットニドール、アンタレス!!!!」
「オーロラエクスキューション!!!!!」
「ええええええ!!!?何をするの、みんな!!!!」

矢継ぎ早に繰り出される、四人もの黄金聖闘士たちの技のオンパレードを一気にみられる機会など中々ないだろう。

というか見たくはないがという思いを込めて、私の目の前すれすれを通り抜けていった技を放った張本人たちを見やれば、彼らは心配げな顔で駆けよってくる。
いや、心配した顔をするなら攻撃してくるなと心をこめていいたいのだが、その言葉は私に抱きついてきたミロと、師匠と同じく私の手をにぎったムウによって憚られた。

「なまえ、無事ですか」
「なまえ!妖怪年寄りコンビに何もされていないか!?」
「ええー…!あきらかに何かされたのはシオンたちよ。それも貴方達によってね」

何か真剣な表情でミロは私に言葉をまくしあげるが、私としては苦笑しか出てこない。いくら黄金聖闘士が丈夫とはいえ、あれだけの必殺技(そもそもミロに関してはアンタレスまで打ち込んでいたし)を受けて、無事とは思えない。

大丈夫なのだろうかという心配も込めて、彼ら二人の吹き飛んでいった方向をみれば、すでに立ち上がっていたシオンと童虎が巻き込まれたらしいデスマスクとアフロディーテとともにミロたちを睨みつけていた。

四人は心配していた目立ったけがなどひとつもなく平然と立っていた。

…なんというか丈夫すぎる。もはや、丈夫のレベルではない気がするが。

どちらかといえば、無事でないのは私の部屋だ。壁は抉れるし、本棚は壊れているし、扉はいつのまにか半壊している。

…修理費はいくらくらいだろうか。


今月の給料と、貯金の額を考えている私をしるはずもない黄金聖闘士たちはそれぞれ口げんかをしはじめた。
「この私に拳を向けるとは、覚悟はできていような、ムウよ?」
「シオン、良い年をして、いつまでも女性にうつつを抜かすのは止めて頂けませんか。彼女には私のような年相応で落ちついた人間が相応しいのです。ですから貴方のような年寄りに言い寄られることは、なまえにとって迷惑になるんですよ」
それ以前に、ムウにもシオンにも、私の部屋の中で暴れまわることが最大の迷惑だと言うことに気づいてほしい。

「何故私まで巻き込まれなければならなかったのだ。薔薇の葬列に見送られたいのか?」
「花を武器にするなんて、いや、武器を使った時点で俺はお前をなまえの隣に立つにふさわしい男として認めん!!」
「フッ、君のような脳筋にはこの優美さなど理解できまい。女性の扱いも知らぬぺーぺーが」
一体アイオリアとアフロディーテはなんの話をしているのだろうか。

「おい、亡者の列に加えてやろうか、この弟子馬鹿似非クール野郎が」
「弟子を大切さと愛らしさも理解できんようなお前に、なまえを任せることはできん」
本当、彼らは一体なんの話をしているんだ。

「ホッ、ならばこうしよう。この中での勝者こそがなまえに相応しい強い男じゃということに」
「さすが老子!分かりやすいですね。ならば喰らえ、真紅の衝撃!!」
「良い拳筋じゃ、ミロ!ならばわしも本気を出さねばなるまい!」
頼むから、もう大人しくしてくれ!!!!!というより、老子は何故すぐに服を脱ぐのだろう。

抉れていく壁、吹き飛ぶ椅子にもはや正常な思考などとっくにストップした私は、すでに上半身裸の状態で拳を繰り出す童虎に溜め息をついた。

師匠がこれだから、紫龍君が真似して露出狂に近づいてしまうんだ!可哀想な紫龍君。これ以上彼の脱ぎ癖を悪化させないために、童虎にはもう脱がないで大人しく座っていてほしい!今ならそう、心の底から願える。

私のそんな願いもむなしく、再び部屋の中で繰り広げられ始めた大乱闘に、吹き飛んで行く机や、吹き飛んで行く窓ガラスや、本来壁だった場所にできた風穴に私はもう一度大きく溜め息をついてソファに座りこんだ。

「この部屋、もう駄目だわ」
「ふむ、壁が軋み、天井も歪んでいるのがこのシャカには分かる」
「内装、気に入っていたのに」

今まで黙りこんで羊羹を食べていたシャカは、ようやく口を開いた。

羊羹のついでに緑茶を渡せば小さくお礼が帰ってきた。
そこだけみれば、まさに午後のティータイムなのだが、そんな私たちの周りを薔薇は飛び抜けていくし、真紅の衝撃は飛び抜けていく。さらには流れ星までピュンピュン飛んでいくし、よくわからない光線も飛んでいく。

なんという危険地帯だ。まさに戦場だ。聖戦に参加した星矢くんたちもびっくりなほどの危険地帯だ。
そこに午後のティータイムなんて優雅さはひとかけらも残されていない。

「…この部屋はもう使い物にならないわね。とくに家具。あー、引っ越しに、家具代に…はぁ…」
「引っ越すか。そうだな、それがいい。…ならばなまえよ。私に一つ案があるぞ」

修理費に一体いくらかかるのだろうと、今月の給料と部屋の損害を計算していると、シャカは羊羹を差していたフォークを皿の上にかちゃりと置いて、口を開いた。

一体どんな案だと、シャカの顔をみれば、彼はふと口端を上げた。
そして、ゆっくりと口を開いたシャカの紡いだ言葉は私の目を見開くには十分だった。

「なまえ、処女宮に住みたまえ」
「………は?」

す、と綺麗な蒼い目を開いたシャカは、そっと私の頬に手を添えて笑った。

「シャカ…?」
「それならば家具も、部屋も、他の黄金聖闘士による危害の危険も何も心配はいらん。金もかからん」
「それはそうかもしれないけど…。迷惑じゃないの?」

そう聞き返せば、シャカは少し驚いたように目を微かに見開いた。

「私が君を迷惑だと感じると、そう君は思うのかね?」
「シャカだって忙しいでしょう」
「心外だな。なまえ、私は君を迷惑だと感じたことはない」
「そうなの?」
「そもそも君の考えとは逆なのだよ」
「……?」

迷惑じゃないということかと首をかしげた私を見て、彼はこのシャカがこのような凡俗な思考に走るなど自分でも驚いているぞと言ってから、はっきりと好きだと言った。

「なんですって?」
「好きだといったのだ」
「あー、そうそう…」

……好き?誰が?シャカが。誰を?私を。

「…は?え、え?…わ、わたし?」
「…なまえ」
「……なあに?」
「私は女神の聖闘士で、いつまた死地に赴くやもしれぬ」
「うん、」
「だが、それでも良いと言ってくれるなら、なまえよ」




私と生きよ
(そんなこと、私の答えは決まってるのに)
(触れた手が僅かに震えていて、私は笑みを抑えきれなかった)


(おい、なまえがいなくなってる!!)
(なんですって!?)
(シャカもだぞ!!!!)
(こうしてはおれん!皆の者、なまえを探し出し魔の手から保護するのだ!!)

top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -