どうして、あの日来てくれなかったの。
そう聞かれたせいか、やっぱり今日もなまえがいたころの夢を見た。
彼女はあの雨の日以来、何事も無かったように「僕」に接してきた。だからこちらも、あの日の事など無かったかのように過ごすことが日常になっていた。あの日も、そうだ。暑苦しい駅に帰省した僕を待ち構えていたなまえは僕の荷物を持って運び出す。自分で持てるし迎えも来ていると説明したが、車まで運ばせてとかたくなに譲らないなまえから一番大きな鞄だけ奪い取ってあとは好きにさせた。むしむしと暑く、人混みからの香水や食べ物のまざりあった匂いに幾分気分が悪い僕の横で、なまえは嬉々として僕がいなかった間の話をしている。
「そういえば、バスケ部に入ったって?」
「そうだよ、今じゃ立派なマネージャー!」
「どうしてバスケ部に?」
「だってバスケの事分からないと、征十郎たちと話していてもわけわかめなんだもん」
「それじゃ、バスケが八対八じゃないことは理解した?」
「八人いたほうがガーッと盛り上がって良いと思うけど」
どうやら頭のほうはあまり進歩していないらしい。考える僕の顔を明るい顔で覗き込んできたなまえが口を開く。
「それでね、わたしもバスケちょっとできるようになったんだよ」
「素人に毛の生えた程度?」
「毛も生えてないけど」
「ただの素人じゃないか」
でもルールは分かると主張してなまえは続けた。
「見せてあげる!」
「いいよ」
「見てよ! いつまでこっちにいるの?」
三日と答えると、なまえは嬉しそうにそれなら明日と叫んだ。
「1 on 1しよ、五本先取で! 中学の傍のバスケットコートあったでしょ? 明日待ってるから」
その時にはもう迎えの車のところまでついていて、なまえは荷物を積み込むとそのまま「明日待ってるから」と言って走って行ってしまった。断りくらい聞いて行けとその後ろ姿を眺めて思う。いや、断られるのが分かっているからその前に走って行ったという可能性もある。が、なまえのことだ。そんなことまで考えていないのだろう。だが僕は頷いていないのだし、わざわざいく必要も無い。自主練もしたいし、家でしなければならないことも多い。僕は、はなから行く気なんてなかった。
どうしてだろう。友達が来てと言っているのだから、行くべきだったのではないか。それか追いかけていってでも行かない旨を伝えなければならなかったのだ。
あふれ出す後悔のような感情から目を逸らしたくてオレは無感情にただ目の前で繰り返される過去の出来事を見ていた。
思い出す、なまえの顔はいつだって明るい笑顔のまま、これからもずっと変わることは無い。
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