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 墓地はまだ明るいにも関わらずひぐらしが鳴いていた。
 台風前とは信じられないほどの午前の青空の下、なまえの墓の前に立つ。「家族のお墓なんだよね、わたしはもうちょっとゴージャスな感じのお墓がよかったんだけどさ、ストーンヘンジ風とかどう? それかピラミッドがいいな〜」なんて相変わらずふざけたことを言うなまえのとなりで水を組み換えて片付けを済ませてから花と線香を供える。

 そっと手を合わせて、それから隣りに立つなまえを見上げた。泣いているんじゃないかと思ったが、そんなことはなかった。振り返って、遠くに広がるオレたちの住む町を眺めている。強い風の中でも彼女ははっきりとした存在感を持ってそこに立っていた。たしかに、そこにいるのだと確信できる存在。だけど、もう生きてはいない、オレ以外には見えない彼女。


 「……おかしいのは、オレのほうなのかもしれないな」
 「なにが? どうして?」
 「常識的に考えて、オレ以外の誰にもなまえは見えないんだ。オレの頭がおかしいと考えても不思議じゃない」
 「わたしはここにいるよ、征十郎」
 「それならどうして誰にも見えないんだ!」


 カナカナとひぐらしが一斉に鳴いている蝉しぐれの中、なまえはじっとオレを見ていた。まるで土の中に蝉の泣き声が染みわたっていくかのような静寂のなか、向き合う。


 なぜ、オレにしか見えないんだ。今更、何をしに来たんだ。お前が来なければこんな気持ちにはならなかった。苦しくて、懐かしくて仕方がなくて、あの日なまえのもとへ行かなかったことについての後悔に苛まれるようなことはなかっただろうに。

 「怒っているの、征十郎」
 「そんなことはない」
 「怒ってるよ、目が口ほどに物を言ってるよ」
 「いや、怒っているのはお前のほうだろう」

 お前はオレのことを恨んでいるんじゃないのか。

 その問いになまえはじっとオレの目を見つめ返してきた。あたりを沈黙が満たして、強い風の音とひぐらしのなく声だけが聞こえる。散々黙り込んだあとに、なまえはゆっくりと口を開いた。


 「征十郎」
 「…………」
 「どうして、あの日来てくれなかったの?」

 感情の抜け落ちたような黒い目とその問いに、ざわりと総毛立つ。
 ああ、やっぱり。お前みたいに騒がしくて後悔なんて言葉を知らなそうなやつが残す悔いなんて大概知れている。自分が死ぬ原因になったバスケットコートへの道。その先にいなかったオレ。オレがいなかったことを知っていて、お前が来ようとしなければあの事故はなくてお前はまだ生きていたのだろう。だから、なまえがオレのことを恨むのは分かる。そして、恨んでその先にお前は何を望むんだ。


 「オレを、殺したいのか」


 憑りついて、それで。だけどなまえはすぐに笑った。オレの問に答えずになまえはくるりとその身を反転させる。

 「もう帰ろうよ。本当に雨降り出しちゃうよ。振られちゃったら征十郎は大変だろうし、明日は黒子君たちと会うんでしょ、いつまでもお墓で休憩するのはやめよ」

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