帰宅をしてからはアルバムを一緒に見たいとなまえが言いだしたので、卒業アルバムや個人的なものを引っ張り出してきて二人で机の上に広げられたそれを見る。なまえは一枚一枚に楽しそうに尋ねてきたり感嘆したり笑ったりと大忙しだ。
「あ! この写真わたしも知ってるよ」
「一年の時の遠足か?」
「そうそう。青峰君と反復横跳びしてたら池に落ちたんだよね」
「何をやっているんだ」
本当に想像できない事ばかりする。
合宿の夜、キャンプファイヤーをやった帰りに野生(?)のゴキブリを発見して、追いかけていたら友人たちの列から逸れて迷子になったこと。秋、友人たちと銀杏をなげあうギンナン戦争をしたこと。鼻が小さくなりたくて、黄瀬からそういうアイテムがあると聞いたが中学生のお小遣いではどうしようもなかったために洗濯バサミで鼻を挟んだこと。家庭科ではなぜかフライパンの上の卵が爆発した。数学は暗号解読の授業。そんなことをなまえは話した。
「楽しかったなー」
それを聞いていて気が付いたら小さな笑みが浮かんでいた。
なまえはそんなオレをじっと見つめて切り出した。
「ねえ、征十郎」
「……?」
「話を、聞かせて。征十郎の話」
「オレの話?」
「うん。高校から、今日まで征十郎がどうやって生きて来たのか、しりたいな」
あの夏の後、オレがどうやって過ごしてきたか。一番インパクトが強かった出来事はウィンターカップだろう。思い返せば学生時代の思い出はバスケに彩られている。色々あって苦しみ、挫折しかけたこともあった。けれど結局オレはバスケを嫌いになることもやめることもできなかった。そんなことを思い返しながら、かいつまんで説明する。
「楽しかった?」
「……そうだね、それなりに楽しんできたつもりだよ」
「そっか」
「幸せいっぱい?」
「……そうだな」
なまえは笑った。その視線はまたアルバムに戻る。誰もが笑顔を浮かべている写真。お前も、笑顔を浮かべている。だけどオレは笑えているか分からなかった。
「ねえ征十郎、今日も一緒に寝て良い?」
「昨日は勝手に入り込んできたくせに」
「だめ?」
「……好きにすればいいよ。ほら、おいで」
もうアルバムを見るのは終わりにした。このままだと色々な気持ちが混ざり合って暴走しそうだったから、黙ってベッドに腰掛けて隣を叩く。そうすればなまえはぱっと顔を明るくさせて飛び込んできた。何から何まで豪快なやつだ。
「おやすみ、征十郎!」
「……なまえは、寝ないんだろう?」
「んー、そうだね! まあ死んでるしねあはは」
笑えないよ。
「それじゃあ、いいよ。オレも限界まで起きているから」
だから、話そう。もっとたくさん、失くした時間を埋められるだけの話を。(この寂寥感、喪失感をどうにかしてほしかった)
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