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 仕事づめだったために、昼に少し仮眠を取る。目を覚ました時、当然のようになまえは隣にいた。目が合うと、あいつは笑顔でおはようと言ってくる。日光を全身に浴びて微笑んでいる幽霊というのはいかなるものかと考えながら起きる。「おはよう」「外。暑そうだよ」「暑いんだよ、実際」、どうやらなまえには温度というものがよく分からないらしい。未だ会った時の長袖長ズボンの黒服でいたので、見ているだけでも暑苦しい。今もその格好のままだ。どうしてその服なのかと尋ねると彼女は突然服を脱ぎだした。

 「ふっふっふ、ラッキーでスケベなむふふ展開がくると思っちゃった? 残念、下にも着ているんでした!」
 「なにが残念だ」

 というより、長ズボンの下にも短パンってどういうことだ。暑いだろう、確実に。しかしようやくTシャツと短パンになってくれたために見た目は幾分改善されたように思う。

 「やっぱ、見てて暑苦しかった?」
 「……多少は。なんでまたあんな格好を……」
 「えー、死んだときに着てた服だからかな、これ。気付いたらこれだったんだよね」

 よく分からないやとなまえはけろりとした顔で言ったが、オレはなんと答えれば良いのか分からずに言葉につまる。それでもきっと、お前が死んだのはオレのせいなんだろう。


 一日二人で過ごし、それでもなんら目に見える変化はないまま夜になって、なまえが突然デートをしようと言ってきた。はたしてこれがデートにあたるのかは分からないが、ふたりで夜の街に出て、だれもいなくなった公園にはいる。なまえはまっさきにブランコにかけよって飛び乗った。

 「いやっほー!!」
 「落ちて泣いても知らないよ」
 「そんな過去の話を掘り返さない!」
 「今現在進行形の杞憂だ」

 中学の帰り道、たしか部活の無い日だったと思う。ブランコに乗りたいといったなまえとこうして公園にきて、彼女は今日のようにいっぱいにこいでそして空へと吹っ飛んだ。幸い大事にはならなかったが、まるで幼稚園児のように大泣きして抱き着いてきたなまえの姿を思い出す。懐かしい。なまえとバスケットコートで出会った時と同じような寂寥感に襲われてオレも隣のブランコに腰かける。

 「征十郎も一緒に!」
 「いいよ」
 「じゃあわたしがこいであげる!」

 そう言って隣に移ってきたなまえがたちこぎをし始める。次第にゆらゆらと揺れて来たブランコで風を頬に感じていた。

 「たのしい?」
 「足が地面につきそうだよ」
 「背が伸びたもんね! じゃあ次は征十郎がこいで! わたしが座る!!」

 言うや否やブランコの勢いはおちて、次第に止まる。なまえが期待の眼差しで見つめて来るものだから、今回だけだと忠告をしてブランコに立った。こぎ始めると、なまえは楽しそうにきゃっきゃと笑いだす。

 「あははは! はやいはやいよ!」

 風に靡く黒髪を、公園のなかの外灯が無機質に照らし出す。まるで本当にここに存在しているように思えて片手を伸ばせば、しっかりと頭に触れた。「どうしたの?」「触れるんだな、と思ったんだ」、幽霊には触れられないと思っていたとつぶやく。もしかしたら、やっぱりなまえは生きているんじゃないか。だけどそれを言うより早く、なまえは小さく笑った。見た事も無い、切なそうな顔で笑ったんだ。だから一瞬口を噤む。


 「おい、赤司か?」

 そこで、声をかけられた。見れば、公園に走って入ってくるのは青峰だった。ランニングの途中だったらしい彼が、怪訝そうにこちらを見てくる。

 「なにやってるんだよ」
 「ブランコに乗っている」
 「そりゃ見ればわかるって。大の大人の男がこんな時間に一人でブランコ乗る理由を聞いてるんだよ」

 ひとりで。

 寂しかったのか、なんて青峰は言ってがははと笑った。見下ろせば、ブランコに座っているなまえは青峰のほうを懐かしそうに見て目を細めていた。その顔にはやはり寂しさの色が紛れている。


 ああ、くそ。分かっていたよ。もしかしたらなまえはまだ生きているんじゃないか、なんてことはオレの勝手な希望だってことくらい。(だってオレ以外の誰も、彼女を認識できないのだから)

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