「生きて、いたのか」
目の前で済ました顔で立つ死んだはずの幼馴染に問う・
「え、なんのこと? 勝手に殺さないでよ〜。でも征十郎とは中々会う機会が取れなかったしね、しょうがないかな?」
「……」
嘘だと、分かっている。この暑さの中でこれだけ厚着をして、お前は汗ひとつかいていない。いっとう暑がりだったくせに、そんな気配すら見せない。それに、生きていたならお前がこの数年間一度もオレに連絡をしてこないなんてことは有り得ない。自惚れではなく、幼馴染としての関係がどんな状況においてもメールや電話を続けさせていたから確信できる。もしも連絡が途絶えるとしても、ぷつりと何もなくなるなんてことは彼女の性格からして考えにくい。そして、極めつけはその姿だった。小さな、身体。あの頃から成長が止まってしまったようなその姿に、小さく嘘だと呟いた。はっきりと言えなかったのは、理解はしていても心が拒否したからだろうか。
だが、なまえは残酷なまでに容易に頷き、笑みを浮かべた。
「あははは、征十郎に嘘ついてばれなかったためしがないね」
「黒子から、聞いている。お前が事故にあったこと。それなのにどうして、ここに? いや、お前はなんだ? オレを殺しにきたのか」
長い事、なまえに対するオレの行為は裏切りのようなものだっただろう。葬式は当然、墓にもいかなかった。考えることもほとんどなかった。まるで遠い人間に対する仕打ちのような態度に復讐でもしにきたのかと問えば、なまえは目をぱちくりとさせたあとに爆笑し始めた。こんな元気で騒がしい霊がいるのか。やっぱり本当は生きているのでは、そう思って触れた頬には、体温が感じられなかった。
「ん〜わかんないんだよね」
そんな適当なことを言うのか。
「いや、色々考えたんだよ。後悔とかさ、でも特に思い浮かばなくて、えっと、つまりですね」
「まさか、自分でも分からないなんていうつもりじゃないだろうな」
「ごめん、その通りなんだけど」
でも嬉しいな〜わたしのこと見える人いなかったんだよ、一人も。だからずっとひとりでいたんだけど、征十郎と一緒にいたら昔のこともいろいろ考えられて「殺しに来たのか?」なんて聞いちゃう突飛な発想が出てくるような気持ちの整理がつくかもしれない、だから成仏できるまで征十郎と一緒にいさせてくださいお願いします。
勢いよく言われて頭をさげられた。もう意味が分からなかった。死んだ友人が、成仏できないから一緒にいさせてくれって、理解できるほうがおかしいだろう。
だけど、死んだ原因がオレにあるのかもしれなくて、しかもその相手が友人で、だとしたらどんなに明るく笑われて冗談めかしていわれても断ることなんてできなかった。ぼんやりする頭のまま彼女の手をつかむ。
「好きに、すればいい」
ああ、どうしてだ。なぜだかひどく泣き出したい気分だった。
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