どさっとダンボールが隣のデスクに置かれた。隣の女の子が寿退社してから数カ月空いていたデスクに置かれたダンボールは結構大きくて、沢山の荷物が入っているだろうから、多分異動になって来た人だろう。そう思いながら、顔を上げて荷物を整理しようとガムテープを剥がしにかかった人物を見た。

「こんにちは、異動になった方ですか。これからよろしくお願いします」
「風丸一郎太と言います、これからよろしくお願いします」

短く青い髪に少しだけ白髪が混じっている。白髪を染めたりしていないのが飾らなくて良い感じだと直感で感じた。
せかせかと手を動かしながらダンボールの中から物を取り出しては並べていっていた。シンプルな雑貨や文具やパソコンが徐々に寂しかったデスクに彩りと物が増えていっていくのを、パソコンを打ちながらたまに観察していた。そうやって見ていたら、デスクから風丸が腕箱を肘に当ててしまい、ガシャンと音をさせて筆立てが倒れ、一本ボールペンが転がってきた。それを手にとって、落としましたよ、とデスクに吹雪は置けば、慌てた様子で「ありがとうございます」ときっちりと頭を下げて風丸は礼を述べた。
それからも黙々と段ボールの物を一頻り取り出すと、風丸はやっと椅子に座った。かと思ったら、すぐにパソコンを起動させて仕事に取りかかり始めた。真面目だなぁ、と思いながらも吹雪も仕事を始めた。






居酒屋での新入社員や異動の人たちの歓迎会も終わって、みんながタクシーに乗ったのを見届けてから横を見ればあと一人、風丸が残っていた。帰らないんですか?と声を掛ければ、「話してばかりであまり飲めなかったから、もう少し飲みたくて」と薄く笑いながら教えてくれた。
「じゃあ、迷惑でなければ僕もお供して良いですか?」と言えば「良いとも」と笑ったので、二次会のお店を探している風丸に、いつも行くオススメの場所を教えた。
店にはいると、自分たちとおなじくらいの年頃の男達がビールを飲み交わしていた。それぞれ既にほろ酔いで、自分たちと同じく歓迎会等が終わってからここに来たのかも知れない。
いつもの特等席のカウンター席に座って吹雪がいつもと同じメニュー、焼き鳥とビールを注文したら、風丸も同じ物を注文した。ビールは直ぐにジョッキに注がれてからカウンターに置かれた。

「みなさんいい人そうで安心しました」
「部長がいい人だから、みんないい人ですよ」
「円堂部長ですよね、確かに明るくて元気な人でしたね」

ジョッキを早速手にとってから飲み始める。一気に流し込むのではなくて、味わうようにゆっくりと喉に通していく。
「そういえば、風丸さんは何歳ですか?」「42です」と言う会話をして、自分たちが同じ年だということに気付いて、少し驚いた。同じ年だと言えば、風丸も少し驚いいたようだった。まさか、同じくらいだとは思っていてもぴったり同じ年だとは思っていなかったからだ。
敬語もなしで堅苦しいことは無しってことでと提案すると風丸も頷いた。

「吹雪は結婚はしてるのか?」
「していたんですけど、色々あって別れちゃいました。色々と考えますが、一人暮らしは楽だからそれはそれでも良かったんだと」
「俺も今は独り身だ。一人暮らしは楽だよな、休みはいくら寝てても良いし。だけど、家事が少し面倒だ」

確かに風丸のデスクには家族と思われる写真が飾られていないことを思い出した。そして、自分の指を見る。若干、自分しかわからないだろうけれど細くなった指を撫でた。とっくの昔に外してしまった指輪を吹雪は思い返す。そうすれば短く終わった結構生活も思い出せた。

「結婚しないの、なかなか良い物だよ」
「結構願望が無いんだ、さっきも言ったとおり独り身生活が楽だからな」

そう言ってから、ジョッキの残り少ないビールを流し込んだ。それと同時に注文していた焼き鳥が2皿がテーブルに置かれた。こんがりと茶色く焼かれた鶏肉にまた茶色いタレがたっぷりとかかっている。
その焼き鳥の串を一本取りながら、風丸はビールをもう一杯追加注文した。吹雪もビールを流し込んだ。大概の人は既に結婚してしまっていて、こんな会話をするのは久々だったし、この店で一人以外で飲むのも久しぶりだ。
鶏肉を口の中で転がしながらだらだらと話した。

「殆どの同僚は結婚していて、直ぐに家に帰るからこんなに長く飲んだのは久々だよ」
「俺もだ」

こんなに長く話していて気が楽な相手もそうそうに居ない。もっと話していたいが、そろそろ深夜12時を越えてしまうところで、2人で席を立った。結構ビールを飲んだはずなのに、吹雪の脚はしっかりしていてそれを言えば「僕、お酒には強いんだよ」と笑った。
お互い席が隣で、同じ独り身だから、また飲みに行こうと約束をした。











おじさんが好きすぎて始まりました。