別れた後の話









携帯を買い換えることになった。昔の携帯のデータを新しい物に送るものと送らない物に分別していたときに、先輩の電話番号を見つけてしまった。
彼と別れたのは随分前のように思えるが、まだ1年くらいしか経っていない。もしかしたら、まだ携帯を買い換えてさえいなければ繋がってくれるだろうと思って、思い切って通話ボタンを押してみた、

「ああ、もしもし、霧野先輩?」
「狩屋?」

会話をしてみれば、押したとき勇気なんて不必要なくらいに軽く会話ができた。
先輩の声は何一つ変わってはいない。そんなにコロコロと声が変わる人は少ないから変わっていないのは当然なんだけれど、変わっていなくて安心する。電話越しでも久しぶりに聞いた声は本当に懐かしい。

「どうしたんだ急に」
「あ、いや別になんとなく電話したくなって。邪魔でしたか?」
「まぁ、ちょっと邪魔かも」

気遣うこともなくそう言ってきた先輩が、昔の先輩と変わってないことを知らせた。いつだって先輩は俺にだけはありのままで言ってきていた。邪魔なら邪魔、五月蠅いなら五月蠅い、嫌いなら嫌い。それは俺も同じで、いつもそれで喧嘩をしていた。
携帯を持ち替えてベットに向かってそして倒れ込んだ。柔らかい毛布に包まれる。邪魔だと言われても、こちらとしては長話をするつもり。

「先輩、今もあの家に住んでます?引っ越しましたか?」

教えてくれた住所は結構離れていた、昔遊びに行っていた家はもう無くなったのかと考えると、きりきりと締め付けられるような感買。やっぱり、まだ忘れられてはいなかった。
自分の部屋を見渡した。その部屋は先輩と付き合っていた1年前となにも変わっては居ない。住所も、置いてある物も、殆ど同じ。
寝ていた体制を起こして、棚を見れば未練がましく残しておいた写真が一枚だけ飾ってある。会話する内容も昔と同じ、変わったのは先輩だけ。

「遊び行っても良いですか?」
「駄目だ」

何でと聞くのが怖かったから、黙っていたら先に先輩が口を開いた。俺とお前は終わったんだ。
その言葉で理解した。終わったのだ、1年前に。戻れる戻りたいと考えていたのは自分だけだったのだ。「そうですよね〜」笑いながら受話器に話しかけた。
立ち上がって棚に向かった。写真立てから写真を抜き出して、片手でぐしゃりと握りしめて、ゴミ箱に投げ捨てた。







「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -