※成長で同棲パロ




「お前、何か我慢してるだろ」と言われたとき、正直ドキッとした。自分の深層心理に隠れていた何か複雑な気持ちが頭を覗かせていたことに、気付いていなかったといったら嘘になるがそれでもどうでも良いかと、誤魔化せるくらいの些細なことだと思っていた。が、剣城にそういわれた時、狩屋は「へ、」と言うのが精一杯で、表情が強ばっていることくらい自分でも分かりきっている。
手元に持っていたマグカップ、中身は剣城が好きなメーカーのコーヒー、狩屋はそれを持ち上げて口元に運んだ。正直言えばコーヒーは苦手だ、ココアとかお茶とかの方が好きだ。底が見えない黒い液体がちゃぷんと持ち上げた衝動で揺らめいている。

「何も我慢なんかしてないって、何言ってるんだよ剣城クン」
「別にそれで良いなら何も言わないが、狩屋、お前最近きもちわりぃ」

お揃いのマグカップを持ち上げて京介はそう言い切った後にコーヒーを飲み込んだ。
お互いつきあい始めて同居して喧嘩したこともあったが、それとは全く別の種の違和感に近いものを感じる。余所余所しい態度が増え、距離が出来た気がする。あれこれお互い散策するようなことは無いが、それでも流石にこうも長く続かれるとこちら側までも気まずくやりにくい。
「きもちわりぃ、って何だよ」と狩屋が食ってかかってくるので「そのままの意味だ」とだけ返答し、マグカップをテーブルに置いてから剣城は席を立ち上がった。これ以上会話をしても喧嘩腰になるだけだろうから、一度自室へ帰ろうとすると、ちょっと待てよ、と狩屋から声を掛けられて剣城は歩みを止めた。
振り向けばまだ狩屋は席に着いたままで俯いている。

「何なんだよ剣城クン、意味わかんねぇよ、説明しろ。何か怒らせることしたか、俺?」
「何もしないから気色悪いんだよ」

そうやって剣城が言い放てば、俯いていた狩屋が顔を上げた。泣きそうなのか怒っているのかよく分からない表情で、その表情を剣城は久しぶりに見た気がする。
ここ最近の狩屋は剣城を怒らせないように言葉を選び態度が少し余所余所しい雰囲気ばかりしていた。そのことが剣城は気にくわなかった。「そんな気を遣うことをするな、鬱陶しい」と更に追い打ちを掛けるように言えば「さっきから気色悪いとか鬱陶しいとか、剣城クン、言うことが酷いだろ」と若干怒気の混じった声色で狩屋が言ってくる。

「別に俺はこうやって剣城クンと喧嘩したくなかっただけだっての」
「今まで喧嘩したことは何回もあるだろ。そうやって気を遣われる方がめんどくさいだけだ」

喧嘩がしたくないから優しくしようとしていただけなのに、それが裏目に出てこんなことになるなんて狩屋は思ってもいなかった。久々に怒鳴った喉は妙に違和感がある。
男だからいつ振られるかも分からず不安で仕方なかったんだ、だから嫌われたくなかったんだよ。知らず知らずそう叫んでいて、目の前に立っている剣城の顔は満足げに目を細めていて口元も下がってはおらずに上がっていて、久々に仏頂面以外の顔を見た気がした。









パセリさんリクエスト
京マサでシリアスです


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