∴捏造多々有ります 消えたくないんだ。そう呟いて、グラン様は我を抱きしめた。その腕から伝わる体温が温かくて、彼も同じほ乳類で人なんだと改めてしっかりと認識できた。 消えたくないんだよ、俺はグランだけどヒロトで基山で吉良で、一体俺は何者なんだ。そう言いながら更に一層抱きしめる強さが増していった。このままでは圧死してしまうのでないかというくらいに。 あなたはグラン様で、ヒロトで、基山で、吉良です。何者でもあるのです。そう言うしかレーゼには言う術が無かった。彼は自分には持っていないものを持っていて、それでいて、持ちすぎて最後にはそれに押しつぶされて圧死してしまうのかもしれない。今の逃げ場のない腕の中にいる私みたいに。 グランとレーゼ 「俺の秘密を教えて上げるよ」と笑っているグラン様の顔はピエロだった。笑っている笑顔は印刷物のように無機質で何を考えているのか分からない。私はピクリとも身体を動かすことが出来ずに、直立姿勢のまま瞬き1つ出来ずにピエロを眺めたままだった。 ピラッと投げるように渡された印刷物。渡されたと言っても、投げ捨てられた紙を屈み込んで拾ったから、間接的に渡されたと言う方が正しい。 「それ、誰だか分かるかい?」 拾った紙は古ぼけて黄ばんだ写真だった。移っているのは、公園と思われる滑り台と砂場の前で笑う赤髪のサッカーボールを持った少年だった。これはグラン様?だろうか、それにしては写真は黄ばんでいて古い。 「グラン・・・様?」 「違うよ、それはヒロトさ。吉良ヒロト、父さんのほんとうの息子なんだよ」 写真から顔を上げて見たグラン様は写真に写る少年がそのまま成長したみたいだ。髪型は今は違えど赤い髪、緑の瞳、優しそうに微笑む薄い唇、筋の通った鼻筋。 まるで俺みたいだろ?そう言うグラン様の表情は愉快そうだった。 「俺が父さんに可愛がられるのは実の息子に似ているからなんだよ。だから俺は愛されるし、お前は愛されないし、バーンもガゼルだって愛されない」 おかしな話しさ。たった1つしか変わらないのに。その顔の皮を剥いでしまえば、下は全部みんな同じ肉の塊なのに、それなのに、父さんは俺を愛するんだ。 そう言いながらグランは笑った。「このことはみんなには秘密だよ、レーゼ。君だけが俺の秘密を知っているんだ」そういってグランは笑った。「愛されないレーゼ、可哀想に。ただ顔が違うだけなのに愛して貰えないなんて可哀想に。だから俺が君を愛して上げるよ」俺の玩具になるんだよ。秘密を誰にも言えないでもどかしく、愛して貰えないのにサッカーをしなければならないなんて辛いだろうけれど、まだ壊れないでよね。 別館より移動 |