メールではなくて電話がかかってきて、いまから行くから家にいろよ、とだけ言われて電話は切られた。声は、走っているのは声も息も荒かった。
電話が来てから5分もしない間だにチャイムが鳴り、ドアを開ければ急に抱きつかれた。いつもは狩屋が甘えるのに、今日は霧野の方から甘えてくる。抱きつき、胸もとに頬を額を押し当てて、生きている鼓動を確かめた。低く、しかし、はっきりと心臓が動く音が耳の鼓膜を震わせて、狩屋が生きていることを確かめた。
なにが起きたのか狩屋は理解できずに、されるがままに霧野に身を任せた。頭を撫で、頬を撫で、いつもしてくれているように子供をあやすように霧野に触れた。

「どうしたんですか?」

落ち着いたのを確認してから声を掛けた。「狩屋が死ぬ夢を見たんだ」それは夢ではないようなリアリティ。目の前で車に跳ねられる身体、あふれ出す血液、変な方向へ曲がった手足、手の中で冷たくなっていく体温。救いは顔が綺麗だったことかもしれないが、逆にそれが死んでいくのが狩屋だと強く認識させて怖ろしかった。
思い出すのは昨日一緒に見た映画だった。みんなが泣いた泣いたと言ったから2人で借りて見たが、狩屋が号泣して泣いていたのを霧野は笑って見たいたはずだ。夢だと分かっていても、それが本当になっていないか霧野は確かめずには居られなかった。血液が血管を流れ、呼吸をし、言葉を発する、それを確認した。

「昨日の映画は笑っていたくせに、」
「映画は映画だ。だけど、人が目の前で死ぬのは嫌だな、もう笑わないことにする」

ここぞとばかりに狩屋は霧野を揶揄しようとしたが、もうすっかりいつもの調子を取り戻していた。靴を脱いで部屋に勝手に入ってくる。
ソファーに座る霧野にお茶の入ったグラスを手渡してから、隣に座った。リモコンを操作して、昨日見たDVDをもう一度再生すると、テレビに映像が流れてくる。最初はどこにでもあるような展開で安っぽいとか感想を言いながら昨日は見ていたけど、今日だと違って見える。

「もしも明日、俺が死んだらどうします」
「狩屋死ぬのか。今思えば、お前が死ねば世界も平和になるな、焦って損した」
「死にませんよ、もしもの話ですよ」

少し考えてから、明日死ぬなら今日くらいは愛してやる、と霧野は言って、また抱きしめた。ソファーに押し倒されてキスされて、手は腹部や喉を撫でていた。狩屋も脚を霧野に絡ませてキスを強請る。「ばかだなぁ先輩は」と狩屋が小さく呟くと、聞こえてなかったみたいで霧野は小首をかしげた。にこりと笑ってはぐらかした。いつもは死ねとか言ってくるのに、いざ俺が死んだらさっきみたいに悲しんでくれる。それが愛おしくてたまらない。






ちもさんリクエストで蘭マサ:台詞「ばかだなぁ、先輩は」
切なめ、というリクだったのですが消化不良です
リクエストありがとうございました









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