剣城と狩屋は別クラス設定
バレンタインの話







不機嫌そうな顔で呼ばれて、何か怒らすようなことをしたのか考えてみたが生憎見当が付かない。とりあえず、更に機嫌を悪くしないように狩屋の待っているクラスのドアの所に剣城は向かった。近づくにつれて更に機嫌を損ねているのか、睨むような目つきになって段々と表情が険しくなる。

「これ、」

名詞だけ言われて、おそらく『これ』に当たる物を半分投げるように渡された。綺麗なピンクのビニール袋にラッピングされていて、その袋の中には茶色の丸い物体がアルミカップの中に包まれる形で存在していた。チョコだってさ、そう教えてくれた狩屋の口調は相変わらず不機嫌で、剣城のことを睨んでいる。「言っておくけど、俺からじゃないから。クラスの女子に渡せって頼まれただけだよ、俺は」そう狩屋は言った。
何故急にチョコレートを渡されたのかと思えば、思い出してみればバレンタインデーという日が今日だった。
まったく、好きなら勝手に渡せばいいのに何で俺に任せるのか意味分からない。とグチグチ狩屋は文句を相変わらず言ってる。

「断れば良かったんじゃないか」
「大概は断ったけど、断ってもしつこい奴がいたんだよ。ほんと、迷惑」
狩屋と剣城は別クラス設定



苦々しい表情でそう言うと、用事は終わったから帰る、と狩屋は踵を返そうとする。待て、と剣城が呼びかけると狩屋はふり返って立ち止まった。何?という顔は来たときよりも若干だが機嫌が元に戻っている気がする。周りを警戒しながら小声で「お前はくれないのか?」と聞くと、狩屋は目を見開いて再び睨まれる。

「俺は女じゃないよ、剣城クン」
「知ってる。けど付き合ってるだろ」
「それとこれとは話が別だってば。作ってもないし持ってきてもないよ。残念だったね」

こそこそと小声で会話をしていたが、中に思い出したかのようにポケットの中身を漁りだした。そして、はい、っと手渡されて見てみればオレンジ味の飴。しかし、少し昔にポケットに入れられていたのかビニールにクシャクシャになっている。心なしか溶けているようにも見える。「ハッピーバレンタイン」と意地悪く笑みを浮かべる狩屋に貰ったソレをそのまま押しつけた。
折角あげたのに酷いなぁ、なんて言っているけれど、確かにこれは自分でも酷いと思う。貰い物の飴、しかも確か3日間くらいポケットに入れっぱなしになっていたはずだ。けれど、今は他の御菓子を持っている訳ではないし作るのも買うのも嫌だ。あーだこーだ、頭で考えるけれどやっぱり嫌な物は嫌だ、俺は女じゃないというプライドはある。
黙っている狩屋を見て「別に無理しなくても良い。さっき言ったことは忘れろ」と剣城は微かに苦笑しながらそう言った。こいつがそんな物をくれるような性格だとは十二分に分かっている。

「ほら、授業始まるから帰れ」
「あー、うん」

じゃあ、部活で。そういって狩屋は背中を向けて走り出した。水色の髪の毛がだんだんと小さくなって、別の扉に吸い込まれていく。それを見てから、自分も席に戻ろうかと思ったら、数人の女子がふり返った先に立っていた。手には形は違えど中身は皆同じで、チョコレートが入っているのが見える。「剣城クン、これ」そう言って、一人の女が袋を差し出してきた、今度はオレンジ色の袋に包まれている。好きです、そうクラスメイトの女子は言ったと思う。思う、って推測なのは途中から声がか細くなって聞き取れなくなったからだ。勇気を出して告白してくれているんだろう。「付き合っている奴がいる」そう言えば、彼女の目には水分が増した。

「・・・そのチョコレートの子?」
「違う」
「じゃあ、なんでそのチョコは受け取ったのに、私のは受け取ってくれないの」

めんどくさい。だけど、言われてみれば、なんでこの自分の手中にあるチョコは受け取ったのに彼女たちのを受け取らないのか自分でも分からない。受け取ればいいじゃないか、と楽観的に思うことはなかった。思い当たる節と言えば狩屋から貰ったことぐらいで、狩屋から手渡して貰ったから受け取ったのかも知れない。
「理由は言えないが、もうチョコは受け取れない」そう言えば、彼女は瞳から水分が落ちないように気を付けながら、後ろを向いて教室を出てどこかに行ってしまった。
心の中で謝罪して、手中のチョコを見つめた。今の女子はクラスメイトでしかも直接渡してくれたのに、チョコをくれた女子のことは何一つ知らない。













リクエストで京マサでお節だったのですが、季節はずれなのでバレンタインネタにしました。リクエストくれた方申し訳ありません。



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