ちょっといつもより重い荷物を肩に掛けて、急いで部室から出て蘭丸の後をマサキは追いかけた。持ってやろうか、と重そうな荷物を見て親切心からか手を差し伸べながら蘭丸がそういったけれど、大丈夫です、と言ってマサキはその手を無視した。
逃げてると頭の中では分かっているの。だけど、やっぱり嫌なもんは嫌だ。今日は俺が死んだ日で生まれた日。そういうと意味不明であるかもしれないが、つまりは捨てられておひさま園に来た日だ。マサキのもう一つの誕生日だとお祝いしようと提案してくれた父親兼兄のヒロトの提案を申し訳なく思いながらも「明日は泊まるから」と言って、そうやって今大きな荷物を抱えている。

「なんでまた急に泊まりたいなんて言ったんだ?」
「別に理由なんて、無いですよ」

そう言った声は心なしか不安定だ。深い理由があるのかもしれないけれども、そこに飛び込んでいく勇気は無い。だから、ふーんっと空返事をした。
それに加えて、マサキもぴりぴりと張りつめた雰囲気で会話を続けるような調子ではなくて、どうしたものかと蘭丸は足下を見つめながら考える。いつもみたいに馬鹿な話しの1つでもしたら空気が変わってくれるかと思うのだけれど、それを言い出せるような空気ではなくて頭を抱える。横を見て様子を伺えば、生意気で常に蘭丸の悪口を言っている口は、今は下唇をかみしめていた。
こうやってウジウジしているのを見るのは苛立つ。神童だってもうすこし愚痴を言ったり訳を話してくれたりしてくれて力に成れてこれたが、こうやって黙りっぱなしで不機嫌な空気を振りまくのは人の居ないところでやってくれ。

「狩屋、何かあったら話してみろ。話しくらいなら聞いてやるから」
「五月蠅いなぁ。先輩に話したって解決しないし、先輩には関係ないでしょ」

親切心をここまであからさまに拒絶されると、逆に怒る気すら失せてしまうのか。
言葉を話していたときに一瞬だけ向いていたマサキの顔はまた地面に向けられていた。遠くから、いやそこまで遠くはないところから、お母さんお母さんっと呼ぶ明るい声が聞こえた。ビクっとマサキは身体を揺らしたかと覆えば、下に向けられていた顔が勢いよく前に向けられた。どうしたものかと蘭丸もその方向を見たけれど、ただ仲の良さそうな親子がいるだけだった。女の子がリヤカーを押す母親に笑いかける。
マサキの肩に掛けていたバッグが地面に落ちた。しかしマサキはそれを持ち直す様子が見れないため、蘭丸がバッグを拾った。

「これ、」

マサキに渡そうとしたときに、横顔が見える。いつもは意志が強そうにつり上がっている瞳からは、重力に従って涙が溢れて頬を伝っていた。不謹慎にも一瞬綺麗だと思ってしまった思考回路を振り払って、狩屋、と声を掛けた。「え、あぁ、バック落としてたんですね、すみません」そう言って泣いていることには何も触れないで蘭丸の手からバックを受け取って、肩にかけ直した。
あのさ、と言えば、ふり返って見えたマサキの表情がいつもよりか落ち着いていて、とてつもなく可哀想だと思った。何も訳も知らないが、こいつ自身自分が何故泣いているのか分かっていないはずだ。「お前、泣いてるぞ」と指摘すれば、狩屋は細い指を目元に持っていて「あ、本当ですね」と言って笑った。
泣いてしまうなんて意味がないというのに、心と体という物は難しい。潜在意識というやつか、この涙は。バックが落ちないように右手で押さえているから、左手の指で全部の涙を脱ぎ取った。それでもまだ涙の後はうっすらと頬や目尻に残って、暗くなった道を照らす街灯によっててかてかと存在を主張していた。

「何でもないんですよ、ただちょっと、ちょっとだけ、嫌なことと嬉しいことを思い出しただけ何で。先輩は気にしないでください」

一気にそれだけまくし立てて、普段と同じ笑顔を作れているかわからなかったが作ってからそう言えば「そうする」とだけ言葉が返ってきた。その表情は街灯の逆行ではっきりと認識は出来なかったけれど、あの人の性格だと笑っているか真顔なんだろうと思う。
早く先輩の家に行きましょうよ、と足取りを速めて親子の前を通り過ぎる。今日のご飯はミーちゃんの好きなコロッケだよ。そう言った母親の声が誰かに似ているように思ったが、誰だったか思い出せない。母親か、瞳子姉さんか、リュウジさんか、もしかしたら先輩の声かも。
追いついてきた蘭丸と改めて2人で並んで歩き出した。「やっぱりさ、お前は憎まれ口叩いてる方が良いな」慰めなのか、よく分からない言葉を蘭丸から言われて苦笑しながらもマサキは「優しい先輩よりもエッチな先輩の方が好きですね、俺は」と言い返した。















ranさんリクエスト/蘭マサでマサキが泣く話
こんな感じの話が書きやすいです。リクエスト楽しかったです、
ありがとうございました^^




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