高校3年生/捏造




暗くなりかけた教室で、勉強する。放課後の教室で、不動が分からないところを聞き、鬼道が教えるようなことが始まってから暫く月日が経過した。
シャーペンで図形を作図して口で説明しながら、不動を盗み見る。睫毛が長いし綺麗だ。中性的という訳ではないが、整った顔が好きだった。こうやって机を挟んで顔を近づけて吐息を感じると、変な気持ちになってしまう、これは恋だ。
不動の指が伸びてきて「ここはどうなってんだ?」と図形の端っこを指さした。爪も綺麗に整っていて、どちらかというと女っぽい細長い爪をしていると気付いたのは勉強を教えてくれと頼まれてからだ。

「今更なんだが、」
「何んだよ」
「何で急に勉強を始めたんだ。元々頭は良いだろうに」

シャーペンを動かす手を止めて、鬼道は不動を見た。
そもそも不動はバカでは無い、バカだったらあんな裏をかいた緻密に計算されたプレーなど出来るわけがなかった。テストでは常にトップ近くをキープしている、なのにここ数ヶ月前からサッカーすら必要最低限しかしなくなって勉強に不動は打ち込んでいた。
持っていた黒いシャーペンを、不動は指で一周させた。指から滑り落ちることなく、もう一度シャーペンは不動の指の中で廻った。
「大学のレベル上げたんだよ、特待制度のある大学にしたから」それだけを不動は言って、回していたシャーペンをしっかり持つと数学の問題を解き始めた。1,5,θ、√。綺麗な文字が次々に彼の持つシャーペンから生み出される。

「どうして、帝国の大学に行かないんだ?」
「帝国よりもっと特待で金出してくれるとこ見つけた。ほら、俺ん家ビンボーだから金無いけど俺は大学は行きたいし」

それで話は終わりとばかりに「ここ教えて」と不動はこちらを見ることも無しに、また綺麗な指でプリントを指さした。綺麗な文字が羅列するプリントを一周させて自分が見やすいように向ける。θ、π、ω、5,12,ここで。途中までの式は完璧でどこが分からないのかが分からなかった。ただ単に、話題を変えたかったのかもしれない。
何処に行くのかと聞いたら、鬼道が行く大学からは離れた大学だった。会えなくなるな、と言えば嫌そうな顔で「別に高校のトモダチってそんなもんだろ」と言われる。

「なぁ、不動。一緒に暮らさないか?そしたら生活費は困らないだろうし、学費だって俺が、」
「お情け、それとも同情?そんなのありがた迷惑だ」

気が付けば滑り落ちた言葉達を、不動は普段より低い声で遮った。プリントを奪い取ると、また綺麗な文字で数字を書く。θ、180°、cosθ。やっぱり分かっていたのに分からない振りをしていたのだ、彼は。
カシャカシャとシャーペンの芯と紙の触れ合う音が、静かな教室に嫌に響いた。「お前が好きなんだ、だから一緒に住みたい。同情でも無い、ただの下心だ」言ってしまったと思ったけれど、意外と心は軽くて今まで突っかかっていた物が取れたような開放感。

「冗談も程々にしろよ。もう一度言ったら許さねぇ」
「冗談じゃない」

淡泊な声色で不動は邪険に鬼道の言葉を扱う。シャーペンをプリントから離そうとする素振りも見せない。下を向いていて、表情は鬼道からは分からなかった。
好きだった、そう好きだった。だから信じられない、世界はそんなに上手く進むはずがないのだ。鬼道を見るのが怖い、声を聞くのが怖ろしい。頭からあいつのことを追い出そうと、必死に文字を書く。Σ、X、Y、=、4,17。
好きだ。人の気持ちも知らないで、もう一度鬼道はバカみたいに同じ言葉を繰り返した。五月蠅い、そう言っても「返事を聞かせてくれないか」と言ってくるだけだ。X、2y、13π。まだ計算式は完成しない。

「五月蠅いって言っているだろ・・・・好きって何なんだよ、意味分かんないよ鬼道ちゃん・・・頭が混乱するからそんなこと言うの止めてくれ・・・」

頭が働かない。ニューロンが機能していないみたいで、頭も酸欠じゃないのにくらくらして締め付けられるみたいな感覚。
どこで間違ったのか計算式は終わらない。π、17,9、2θ。結局俺に、どうしたら良いのか教えてくれよ、鬼道クン。














中途半端が気持ち悪かったから急いで書き上げてみたけど、何か予想していた物と大幅に違う。多分この後つきあい始めると思う。

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