※二人とも電車通学設定

次の電車が来るまでに暫く時間があったから、一乃は鞄からウォークマンを取り出した。ちらほらと学生の姿は見えるけれど、友達は見あたらない。地面に視線を落としつつ、ウォークマンを指で遊んだ。
イヤフォンを耳に差し込んで、ボタンを押した。曲をイヤフォンから溢れそうな幸せな音楽。
友達に教えてもらったアーティストの最新アルバムの一曲が、耳元で流れている。嘘っぽい愛の歌というよりは、応援歌を多く歌うから聞く度に気持ちが軽くなる気がした。
気持ちが音楽に向いてしまって、周りを気にしないで一乃は鼻唄を唄い始める。小さく、フンフンと切れ切れで、知らない人が聞いたら何の曲か絶対わからないだろう。

『なあ、それって×××の新曲?』
『へ、あ、南沢さん』

ちょんちょんと肩を叩かれて、振り向いたら部活の先輩で恋人である南沢が立っていた。
音楽を聞いていて全く南沢の言っていたことが聞き取ることが出来てなかったから、イヤフォンを取って『南沢さん、どうしたんですか?』と一乃尋ねる。
『今、聞いてたの×××の新曲?』と、もう一度南沢も同じ質問を繰り返した。
先に帰っていたと思ったら、前の電車を乗り過ごしていたのか一乃が駅にいた。その一乃からは、聞き慣れたようで聞いたことのない曲が口ずさまれていたから、思い当たるアーティストの名前を出して質問した。

『そうですよ、×××の新曲です。南沢さんも×××が好きなんですか?』

やっぱり、考えていたアーティストと同じ名前が一乃の口から答えられる。
『好きなんだけど、新曲買いに行ったら既に売り切れだったんだよ』と、少しだけ南沢は整った顔を悔しそうにして言う。悔しそうに見えたのは、気のせいかもしれないが一乃には見えた。
同じアーティストが好きだとは思ってなかった。そもそも、音楽の話はあまりしたことが無い。サッカーの話がメインで、たまにお互いのことを話をしたが音楽関係は少ない。

『良かったら、貸しましょうか?』
『良いのか?』
『別に減るものじゃないですから』

鞄の中に手を入れると『今日、友達に貸してたのが返ってきたんです』と言いながらCDを抜き出して一乃は手渡す。
今回のCDジャケットはアニメーション的な絵柄の男の子達が数人が様々なポーズをとっていた。
受け取った南沢は『ありがとな』と言って興味深そうにCDケースを裏返してみたりして眺めていた。その表情は新しい玩具を手に入れた子供と同じに見えて、なんだか微笑ましい。そんなことを南沢さんに言ったらまた不機嫌になることは分かっているので口には出すことはないけれど。

『×××の曲で、他に何が好きなわけ?』
『そうですね、やっぱりファーストアルバムの曲が一番好きです』
『確かに×××は最初の方が良い曲多いよな』

同じ事を思ってる、そう分かったら嬉しくなって『ですよね!』と少しだけ声が大きくなってしまって、一乃も自分で驚いた。やっぱり、好きな人と好きな物が一緒で考えていることも同じだと嬉しかった。
普段大人しい一乃がはしゃぐ姿を見てより一層愛おしく感じ、南沢は穏やかに微笑む。
電車の来る音が耳障りに聞こえた。














支部のを再アップ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -